「耕治クンは多分過去にとても充実していた時があったんじゃない？それが、一生懸命こうしようと思ってたことが、今は自分の力ではどうしようも出来なくなって駄目になったしまっていて、そこから立ち直っていないから物事をそんな風に考える様になってしまっているんじゃない？
食欲がないことだって、体が食べ物を全く受け付けなくなってるんじゃないのなら心配は要らないと思うわ。過去に拘っていないで、楽しいことを考えたり計画したりして前向きにやっていこうとしていたら、きっと自然に解決するんじゃないかな？」
こんな風に同年代に診断されて耕治は自分が恥ずかしかった。と同時に、人の心の中への洞察力に感心した。自分の高校時代の恋愛や別れ方は秋田の同級生には広く知れていたんだろうか。でも衿ちゃんとは交友範囲は違っていたし、俺に興味なんかなかった筈だったし。耕治は自分が或る意味で心の病だった事実を衿子に指摘されたことで、衿子が頼もしく、もっと何でも話してしまいたい様な気がしていた。
お陰で、二人がそれぞれの車両に戻って眠りに就く頃、夜行寝台は既に郡山を通過して関東平野へ滑り込み、早春の東の空が仄明るさを帯び始めていた。
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