「どう?美知子ちゃん。面白かった?兎我沼の伝説!・・・それから、私たちのお話」
「え、えーっと・・・・」
私は、戸惑いながらファイルを閉じる。
赤い夕日が差し込む。
まぶしいのに、真理恵先輩はカーテンを開いたままだ。
何重にも巻かれた包帯の上から、顔や二の腕をぼりぼり掻きながら、先輩は言う。
「面白くなかった?」
「い、いや、あの、本当なんですか?この話・・・・。」
「怪奇研究部にはもってこいの話でしょ?美知子ちゃん、あなた、これを記事にしなさいよ。みんな喜ぶわよお〜」
「そ、そうですね、でも、あの・・・・」
「何?」
「つらいです」
「つらい?」
私は、涙を拭いて、言った。
「あの、真理恵先輩にとっては、憎い人だったのかもしれないけど・・・
私にとっては、実先輩、憧れの人だったから。
いなくなってしまって、悲しいです」
「実が好き?」
「はい。あの・・好きだったから」
あはははははははは、と真理恵先輩は笑った。
「好き、ねえ・・・」
「はい、だから、あの・・こういう、悪い冗談っていうか、いなくなった人たちのこと、こんな風にネタにするのってよくないんじゃないかなって」
すると、真理恵先輩は、私の両手をそっと握って言った。
「アンタにとっては、ただの男でしょう。
だけど、私と実の関係は、もっと深いの。
だって、私達・・・・兄弟・・・・なのだから」
真理恵先輩の目にも、涙が浮かぶ。
暫く沈黙した後、真理恵先輩は、私の耳に囁いた。
「人魚の肉、食べてみたい?」
「嫌!」
つきとばそうとする私の肩を、真理恵先輩がそっと抱く。
「でしょうね。だけど、本当なのよ。この話。」
そして、先輩は、今まで聞いたことのないようなやさしい声でこう言った。
「ねえ、私、どこから間違ったのかなあ」
私は何も言えず、ただ、その背中に手を添えるだけだった。
嗚咽が、小さな部室にひびく。
私の肩に流れおちる先輩の涙は、意外にも綺麗だった。
おわり
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