俺の思考回路はもう止まっていた。
やばい!
食われる!!
怖い。
やばいよ。
俺、なんでこんな目に???
なんで???
なんで???
どうして???
俺、何かした?
どうしてなんだよう!!!
「ガア!」
化け物は大きな口を開けた。俺の視界は、真っ赤な舌と真っ白な歯で占領された。
思わず目を閉じた、その時・・・。
ガタガタガタ!
排水溝の蓋が飛び、中から何かが飛び出してきた。
ウォオオオオオオオオオオオオオオオン
肉塊に飛びつかれた化け物は、悲鳴を上げて仰け反った。
何が起こったのか、とよく見ると、
「・・・千春先輩!?」
千春先輩、だったものが、排水溝から飛び出してきて化け物に噛み付いているのだ。
腕も足も捥げて、鱗と肉片にまみれたそれを、なぜ千春先輩だと識別できたかというと、
半分になった彼女の顔は、俺が始めて見たときと同じように、美しかったからだ。
千春先輩が、声にならない呻きをあげながら、化け物の首筋を噛み潰していく。
「もおおおおおおおおおおおおおおおう!何で邪魔すんのよ!」
真理恵は、うんざりした様子で、千春先輩を化け物から引き剥がそうとする。
とまどう俺に、千春先輩は、右しか残ってない目で訴える。
「逃げて」と。
俺は、急いで風呂場から逃げ出した。
きぃいいいいいいいいいいいいい ぎゃああああああああああああああああ びゃあああああああああああああああああああ
深夜のアパートの一室、女たちと、化け物の声が響きわたる。
だけど、他に住民の居ないそのアパートには、誰も助けには来なかった。
どうすれば・・・いったい、どうすれば・・・・・・あああああああああ。 痒い、痒い、気持ち悪い、気持ち悪い、水で洗いたい。
俺は、一瞬忘れていた体の不快感を思い出してしまい、全身を掻き毟った。
みず、みず、みず、みず!!!
ああ、みずだ、なんてきれいなみずだあ。
きらきらして、虹色で、ぬるぬるがいっぱい流れていて、臭くて、ここに、とびこんじゃえ!!!
ざあざあ。ぶくぶく。ああ、いいきもち。
くさったものが、いっぱいながれこんでくる。
このまま流れに身を任せていけば、 あ、そうだ、きっと、あの沼にいけるぞお。
あの沼には、きっと僕のおとうさんもおかあさんも、千春先輩も、真理恵も、学校の先生も、 偉い人たちも、アーチストも、外国のひとたちも、きっとみんなみんな集まるはずだ。
すぐ会えるよ。
すべての汚水は、ひとつのところに集まるんだ。
ぬるぬる。 だらだら。
だから、このまま流れに身を任せていけば、 きっと、みんな、会えるよ。
痛みも穢れも慣れてしまえば気持ちがいいものです。
みんな自分が気持ちいいと思うことを思いっきりやっちゃえばいいんだ。
そして、ねえ、君も、いつか僕と会おう。
ごうごう。ざあざあ。
僕の体は流されていく。
ああ…
でも、なぜだろう?
なんだかすこし、かなしい。
ぼくは・・・・・。
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