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作品名:汚水 作者:tomosibi

第89回   千春のさいご
最後の最後で手を抜くぐらいなら、最初からしないほうがいい。

そう、そうだったの。

私が、実くんが肉を吐いてしまったことを伝えたとき、真理恵は激怒した。

冷たい床に額を押し付けられ、散らばった汚物を全て舐め取るように言われた。

私は、その命令には従順に従った。

何でかな・・・。

罪悪感があったのよね。それと・・・

真理恵が、何だか、かわいそうで。




その後、真理恵の母親の容態が悪化した。

右手全体が、びっしりと鱗に覆われていた。

痒い、痒い、とヒステリックに叫ぶ母親の、右腕の肉を、真理恵は・・・。

そして、丁寧に、今度は自分で、調理し始めた。

お弁当箱に詰められたそれは、まるで、見かけ上、親子がピクニックに行く時のランチみたいに、綺麗に盛り付けられていたわ。



母親に、痛みは、なかったらしい。

だけど、もう、心が限界だったんだろうね。


その後、線路に飛び込んで死んだ。


ぐちゃぐちゃになった肉片には、きっと、いくらか鱗もまざっていたんだと思うけど・・。

不思議と、片付けてくれた人たちは、そのことを追求しなかったんだって。


轢死して散らばった肉って、解体したお魚に似てるからかなあ・・・?




その時はとっても落ち込んだけれど、
だけど、その後、素敵なことだってあったんだよ。



私の体にも、変化は起きた。
幸いながら、このうつくしい外見はそう変わらなかったんだけれどね。

私は、愛の証を生み出すことができたの。

私の口から産まれた、ぬらりとした、卵。

そこから、何と、みーくんそっくりな、人魚が、生まれたんだよ!


真理恵は、それを見てすっかり機嫌を良くした。
彼女は、人魚に、りゅうくんって名前をつけた。

りゅうくんは、鼠や猫や、小さい子どもを食べて、すくすく大きくなったよ。


りゅうくんと一緒にいるときの真理恵は、とっても輝いてるように見えたなあ。


りゅうくんは、すくすく、すくすく大きくなって、
バスタブじゃあ飼えないくらい、
男の人の頭なんて、簡単に食いちぎれるように大きくなったんだよ!



真理恵は、実くんを、りゅうくんの餌にしたいって言ってた。

・・・そうなんだー、って、私、もうその頃には、どうでもよくなっちゃって。

だって、そんなことよりも、うーん、水が、汚れた水で、兎我沼の水で泳ぐことが、だーいすきだったから。

ああ、そうだ、私は、汚水の中で生まれて、汚水に住むのがぴったりで、もう、これ以上、何もいらない。

そう思いはじめていた。







ふう・・・。

色々思い出したら、疲れちゃった。

わたし、もうおかしくなってるんだろうなあ。

ふふふふっ。


うーん、て、腕を伸ばして眠りたいけど、その腕も、もう無い。

体を横たえたいけれど、その体は、ほとんど無いに等しい。

ただ、水槽の中、汚水の中に、崩れた私の頭が浮いているだけ。

・・・真理恵、早く帰ってこないかな〜。




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