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作品名:汚水 作者:tomosibi

第6回   怒る彼女
次の日。昼休み。

まりえがちょこちょこ近寄ってくる。
面倒臭いな。

「実くん」
「まりえ」
「どうだった、人魚!」
「最悪だ」
「食べたの!?」
「あぁ、ただの白い魚だな。あれは」
「ただの白い魚、かあ。ふ〜ん…」
「でもその後が最悪でな」
「うんうん」
「なんか変なジュース飲まされて…」
「変なジュース?」
「漢方薬、みたいな。それがすっげー不味くて、料理も何も、全部吐いちまったよ」
「全部?吐いちゃったの?」
「うん。だから人魚の肉なんて、もう腹に残ってないんじゃないかな」
「お腹の中身を全部吐き出してしまったの?」
「最悪だろ?」

「最悪だわ」
まりえの声が一段と低かったので俺はびっくりした。
「お前、怒ってる?」
「…」

まりえは黙って教室を出て行った。
まりえが千春さんに文句を言いに行くのか?
「おい、待てよ。もういいって」

俺が止めるのも聞かず、まりえは階段を駆け上って、上級生の教室へ歩いていく。

窓際の席、千春さんは一人座ってぼんやり外を眺めていた。
しかし、まりえが近づくと、途端に青ざめた。

「千春先輩」
「あ、あの…まりえさん」
「おい、まりえ、もういいから」
「何をしたか自分でわかってる?」

千春は俯いている。
「わかってる?」
「だって…」
千春はちらっと俺を見てから、まりえに言った。
「もうやめない?」

数秒沈黙。返事の代わりに、まりえは両手で机を打ちつけた。
ギラギラした目で千春さんを睨み付けている。

「じゃあ千春先輩は、責任を取るってことだよね」
「それは…!」
「命がけだったんだ。命がかかってるんだよ。
でもあんたには…一線を越える覚悟も無かったんだ」
「おい、まりえ、やめろ。大げさだろ」

少し声を大きして、割って入ると、二人とも、はっとしたようだった。

まりえは小さくため息をついて、はき捨てるように言った。
「もういいわ…。今後、私たちに関わらないでね」
「…わかったわ。わかったけど、まりえ」
「何?」
「私は、もう、疲れているのよ」

「疲れてる?」
まりえはふん、と笑った。
「一番可哀相なのは誰だと思っているの?」
まりえがそう言い捨てると、千春は大きなショックを受けたようだった。
くるりと身を翻して、まりえは部屋を出て行った。

俺は去り際に、千春さんに声を掛けようとしたが、
机に伏せて泣きはじめたもんだから、
どうしていいかわからず、その場を離れてしまった。


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