次の日。昼休み。
まりえがちょこちょこ近寄ってくる。 面倒臭いな。
「実くん」 「まりえ」 「どうだった、人魚!」 「最悪だ」 「食べたの!?」 「あぁ、ただの白い魚だな。あれは」 「ただの白い魚、かあ。ふ〜ん…」 「でもその後が最悪でな」 「うんうん」 「なんか変なジュース飲まされて…」 「変なジュース?」 「漢方薬、みたいな。それがすっげー不味くて、料理も何も、全部吐いちまったよ」 「全部?吐いちゃったの?」 「うん。だから人魚の肉なんて、もう腹に残ってないんじゃないかな」 「お腹の中身を全部吐き出してしまったの?」 「最悪だろ?」
「最悪だわ」 まりえの声が一段と低かったので俺はびっくりした。 「お前、怒ってる?」 「…」
まりえは黙って教室を出て行った。 まりえが千春さんに文句を言いに行くのか? 「おい、待てよ。もういいって」
俺が止めるのも聞かず、まりえは階段を駆け上って、上級生の教室へ歩いていく。
窓際の席、千春さんは一人座ってぼんやり外を眺めていた。 しかし、まりえが近づくと、途端に青ざめた。
「千春先輩」 「あ、あの…まりえさん」 「おい、まりえ、もういいから」 「何をしたか自分でわかってる?」
千春は俯いている。 「わかってる?」 「だって…」 千春はちらっと俺を見てから、まりえに言った。 「もうやめない?」
数秒沈黙。返事の代わりに、まりえは両手で机を打ちつけた。 ギラギラした目で千春さんを睨み付けている。
「じゃあ千春先輩は、責任を取るってことだよね」 「それは…!」 「命がけだったんだ。命がかかってるんだよ。 でもあんたには…一線を越える覚悟も無かったんだ」 「おい、まりえ、やめろ。大げさだろ」
少し声を大きして、割って入ると、二人とも、はっとしたようだった。
まりえは小さくため息をついて、はき捨てるように言った。 「もういいわ…。今後、私たちに関わらないでね」 「…わかったわ。わかったけど、まりえ」 「何?」 「私は、もう、疲れているのよ」
「疲れてる?」 まりえはふん、と笑った。 「一番可哀相なのは誰だと思っているの?」 まりえがそう言い捨てると、千春は大きなショックを受けたようだった。 くるりと身を翻して、まりえは部屋を出て行った。
俺は去り際に、千春さんに声を掛けようとしたが、 机に伏せて泣きはじめたもんだから、 どうしていいかわからず、その場を離れてしまった。
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