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作品名:汚水 作者:tomosibi

第50回   真理恵@
実は死ぬ。実の母親も死ぬ。

やっと。やっと、ここまで来れたんだね。

真理恵は微笑みながら、ふと目を伏せた。
ここに至るまでのことが、胸の中に蘇る……。






夏の日の不愉快な思い出。
ぶよぶよとした腐敗。中年淫婦の金切り声。引き裂かれた衣類。引き裂かれるために着る衣類。特定の目的のために集められた器具。荒い息づかい。気持ち悪い。

両手に何も無いこと。未来に何も無いこと。内側に何も無いこと。
彼らが生きている限り付きまとう苛立ち。

目と、手と、顔と、頭と、舌を焼く日差し。
偽善者の言う偽善的な偽善。
地獄に落ちればいい。地獄に落ちればいい。
可愛い私。可愛い私、の人生を、こういうふうにしたのは、誰?




私が覚えているパパは、スキンシップを大切にするパパ。
小さい娘が大好きで。
いつもいつもスキンシップを大切にするパパ。
そして優しいママ。
パパとママと私。
三人の固い絆。

欲しいものは何でも買ってもらえた。
お人形、お菓子、ゲーム、お姫様みたいなお洋服。
ママも、女王様みたいに綺麗な宝石やお洋服を着ていた。
綺麗な私たち。おたがいに、「かわいいわね」「ママもきれい」言い合ってた。

車で、よく遠くまで連れてってもらった。
海。水筒、浮き輪を膨らます。ビーチボールも。ママのおにぎり。黒い格好いい水着は白いママに似合う。スタイルのいいママ。
いつもスキンシップを大切にするパパとママ。
綺麗な三人家族。
夫婦の間に可愛らしい私。頭をなでられる。幸せ。

幸せな日々!

パパはお仕事がとってもとっても忙しくて。
ごくたまにしか会えないけれど。
会えるときにはいつも車で遠くに連れてってくれた。
すっごく美味しい食事。いつもレストランに行く。
せれぶの人たちが行くようなお店に、お洒落して連れて行ってもらえる。
たまに家で食事をすることになっても、
パパは珍しいお土産を持ってきてくれて、それをママが料理して、テーブル一杯にごちそうが並ぶ。三人で仲良く食べる。
美味しいお魚。大好きだった。

どう?わたしの家族。最高でしょう。
完璧でしょう。

でも…

パパのお仕事がもっともっと忙しくなって。
パパに会えるのが毎週火曜日の夜だけになって。
もっともっともっと忙しくなって。
毎月第二火曜日の夜だけになって。
毎年の記念日だけになって。

ある年のクリスマス。ママは、驚くことを言った。

「もうパパには会えない」

どうして?どうして?どうして?さびしい

「家族なのに?」
そう言うと、ママは、黄色い目をして、何故か私をぶった。


そしてママは、鬼みたいになった。
手当たり次第に物を引っつかんで投げ散らかした。
猫のみぃこも掴んで、投げたり、踏んだりした。猫は死んだ。
私も投げ飛ばされた。鼻血が出た。


その日から、ママとの二人暮らし。

パパは居ない。
車も無い。
レストランも無し。
おもちゃも無し。
宝石は売り飛ばしたらしい。
海も無し。
ママは食事を作らない。
いつもぶつぶつなんか言ってる。よく私を叩く。殺されそうになる。

おうちも変わった。
きれいなマンションから、
暗くてじっとりとしたアパートへ。

アパートの住人は何人かいたけど、みんなじっとりとしていて。
気持ち悪いおじさんがいつも私をじろじろ見るから怖かった。

パパが来なくなってから、私の毎日は変わってしまった。


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