実は死ぬ。実の母親も死ぬ。
やっと。やっと、ここまで来れたんだね。
真理恵は微笑みながら、ふと目を伏せた。 ここに至るまでのことが、胸の中に蘇る……。
夏の日の不愉快な思い出。 ぶよぶよとした腐敗。中年淫婦の金切り声。引き裂かれた衣類。引き裂かれるために着る衣類。特定の目的のために集められた器具。荒い息づかい。気持ち悪い。
両手に何も無いこと。未来に何も無いこと。内側に何も無いこと。 彼らが生きている限り付きまとう苛立ち。
目と、手と、顔と、頭と、舌を焼く日差し。 偽善者の言う偽善的な偽善。 地獄に落ちればいい。地獄に落ちればいい。 可愛い私。可愛い私、の人生を、こういうふうにしたのは、誰?
私が覚えているパパは、スキンシップを大切にするパパ。 小さい娘が大好きで。 いつもいつもスキンシップを大切にするパパ。 そして優しいママ。 パパとママと私。 三人の固い絆。
欲しいものは何でも買ってもらえた。 お人形、お菓子、ゲーム、お姫様みたいなお洋服。 ママも、女王様みたいに綺麗な宝石やお洋服を着ていた。 綺麗な私たち。おたがいに、「かわいいわね」「ママもきれい」言い合ってた。
車で、よく遠くまで連れてってもらった。 海。水筒、浮き輪を膨らます。ビーチボールも。ママのおにぎり。黒い格好いい水着は白いママに似合う。スタイルのいいママ。 いつもスキンシップを大切にするパパとママ。 綺麗な三人家族。 夫婦の間に可愛らしい私。頭をなでられる。幸せ。
幸せな日々!
パパはお仕事がとってもとっても忙しくて。 ごくたまにしか会えないけれど。 会えるときにはいつも車で遠くに連れてってくれた。 すっごく美味しい食事。いつもレストランに行く。 せれぶの人たちが行くようなお店に、お洒落して連れて行ってもらえる。 たまに家で食事をすることになっても、 パパは珍しいお土産を持ってきてくれて、それをママが料理して、テーブル一杯にごちそうが並ぶ。三人で仲良く食べる。 美味しいお魚。大好きだった。
どう?わたしの家族。最高でしょう。 完璧でしょう。
でも…
パパのお仕事がもっともっと忙しくなって。 パパに会えるのが毎週火曜日の夜だけになって。 もっともっともっと忙しくなって。 毎月第二火曜日の夜だけになって。 毎年の記念日だけになって。
ある年のクリスマス。ママは、驚くことを言った。
「もうパパには会えない」
どうして?どうして?どうして?さびしい
「家族なのに?」 そう言うと、ママは、黄色い目をして、何故か私をぶった。
そしてママは、鬼みたいになった。 手当たり次第に物を引っつかんで投げ散らかした。 猫のみぃこも掴んで、投げたり、踏んだりした。猫は死んだ。 私も投げ飛ばされた。鼻血が出た。
その日から、ママとの二人暮らし。
パパは居ない。 車も無い。 レストランも無し。 おもちゃも無し。 宝石は売り飛ばしたらしい。 海も無し。 ママは食事を作らない。 いつもぶつぶつなんか言ってる。よく私を叩く。殺されそうになる。
おうちも変わった。 きれいなマンションから、 暗くてじっとりとしたアパートへ。
アパートの住人は何人かいたけど、みんなじっとりとしていて。 気持ち悪いおじさんがいつも私をじろじろ見るから怖かった。
パパが来なくなってから、私の毎日は変わってしまった。
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