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作品名:汚水 作者:tomosibi

第48回   お母さんの手
バスタブの中でグチャグチャやって居たのは、今まで見たことが無い生き物だった。

…蛇?

バスタブ一杯に、数メートルはありそうな胴体がトグロをまいている。

蛇の顔が、こちらを向いてる。

髪は長く、人間のような顔をしているが、
俺と同じように、鱗に覆われている。
ワニのような目。
獣の目。

「キャアアアアアアアアアアアアアアアア」

化けものは天井を向き、もう一度雄たけびをあげた。
そのあと俯き、バスタブの底にある何かを食っている。
…肉?

その肉を見たとき、俺の思考が硬直した。

肉、だ。肉を食ってる。

それ、も、ただ、の肉、じゃなくて。

だれかの、人体の、一部を食ってる?

切り落とされた、腕を食ってる?

見覚えのある、誰かの手に見えるんだけど。

それで、さ、
あれ、指輪してるの。
あのさ、あれ、お母さんの手じゃねえ?

俺のお母さんの手に見えるんだけど。

あれ?何で?何で???
あれ?
あれ?

なんでぼくのおかあさんここでばけもののえさになってるの???

息が出来なくなるほどに血の匂いがする。

真理恵はそっと化け物に近づいた。
靴下とスカートが汚物に汚れた。
そして、化け物の濡れた髪を、そっと撫でた。

「実くん、こっちおいでよ」

俺は首を横に振り、風呂場の入り口から動かなかった。

真理恵はいかにも気分を害した、という表情をし、立ち上がって俺を睨んだ。

沈黙。
しばらく、化け物が肉を食っている音だけが、風呂場に響きつづけた。

「実くん」
「…」

俺は、自分自身の姿と、化け物と、化け物が食っているものに混乱している。


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