バスタブの中でグチャグチャやって居たのは、今まで見たことが無い生き物だった。
…蛇?
バスタブ一杯に、数メートルはありそうな胴体がトグロをまいている。
蛇の顔が、こちらを向いてる。
髪は長く、人間のような顔をしているが、 俺と同じように、鱗に覆われている。 ワニのような目。 獣の目。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアア」
化けものは天井を向き、もう一度雄たけびをあげた。 そのあと俯き、バスタブの底にある何かを食っている。 …肉?
その肉を見たとき、俺の思考が硬直した。
肉、だ。肉を食ってる。
それ、も、ただ、の肉、じゃなくて。
だれかの、人体の、一部を食ってる?
切り落とされた、腕を食ってる?
見覚えのある、誰かの手に見えるんだけど。
それで、さ、 あれ、指輪してるの。 あのさ、あれ、お母さんの手じゃねえ?
俺のお母さんの手に見えるんだけど。
あれ?何で?何で??? あれ? あれ?
なんでぼくのおかあさんここでばけもののえさになってるの???
息が出来なくなるほどに血の匂いがする。
真理恵はそっと化け物に近づいた。 靴下とスカートが汚物に汚れた。 そして、化け物の濡れた髪を、そっと撫でた。
「実くん、こっちおいでよ」
俺は首を横に振り、風呂場の入り口から動かなかった。
真理恵はいかにも気分を害した、という表情をし、立ち上がって俺を睨んだ。
沈黙。 しばらく、化け物が肉を食っている音だけが、風呂場に響きつづけた。
「実くん」 「…」
俺は、自分自身の姿と、化け物と、化け物が食っているものに混乱している。
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