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作品名:汚水 作者:tomosibi

第4回   嘔吐
千春さんのアパートは薄暗く散らかっていた。
ゴミ袋とそこから溢れたゴミが汚い。
何故か病院っぽい匂いがするし湿ってる。
一人暮らしの女性にしちゃあ、何というか、その、不気味。
何かの作業所、てえ感じだな。

台所は打ちっぱなしの壁が冷たかった。
妙にでかい冷蔵庫から、千春さんは人魚だという大きな肉塊を取り出してきた。
何重にもビニール袋で巻かれているその隙間から、消毒液の匂いがぷん、とした。

「腕を振るって人魚料理するから、待っててねぇ〜」
俺は台所横のこれまた薄暗いテーブルで待つ。
ちょっとテンション下がってきた。
早く食うもんくって次にすすみたい、そんなきもち。

長い!って
貧乏ゆすりを5万回位したかな。
やっと料理が運ばれてきた。

テーブルの上には、たくさんの魚。

炒めた、魚。
揚げた、魚。
よく煮込まれた、魚。
どれも、魚の料理。

「す、すごいっすね」
千春さん料理上手え!どっかの料理屋のフルコースみたいだ!

「遠慮しないで、食べてね」
千春さんは笑いながら、スプーンで俺の口に押し込んできた。

ん…一口目は旨い?かな。
けど、これは化学調味料の味だな。
肉自体は何てことは無い。ただの魚なんだけど、
味付けが濃い!
このわけのわからない赤いソースは、すごくドロドロしてるし。
緑のスープは、深い色をしていて香辛料がきつい。
…そっか、魚が生臭いんだ。
だから、それを打ち消す為に味付けを濃くしているんだな。
でも、まだまだ少し生臭いなー。

でも、女の手料理だしな…。
ここは誉めとくのが男なんだろうな。
「ん、うまいっす」

千春さんはニコニコしながら、またしても俺の口に入れようとしてくる。
「も、もう、自分で食べますよっ」
「照れてる。可愛いわね」
男に手料理を食べさせるというシチュエーションのせいか、
千春さんは高揚してテンションが上がってる。
やたらにひっついてくる千春さんに、俺の機嫌も治ってきた。

…それにしても、濃い味だ。
…こんなに濃くしてしまうと、
素材の味がわからないじゃないか。

喉が渇く。全部食べ終わるまでに俺は沢山水を飲んだ。

何とか食い終わった。千春さんは俺の様子をじっと見て、言った。
「実くん、おいしかった?」
「うまかったっす」
「本当に?」
「本当です!ありがとうございました」
「…」

千春さんは、じーーっと俺の顔を見る。
謎の沈黙。
千春さんの目がふと閉じて、また開いた。悲しそうな目。なんでだ?

千春さんは俺に尋ねた。
「実くん、喉渇いてるよね?ジュース、飲む?」
「ああ、いただきます」

突然グラスに注がれたのは、謎の黒い液体。
「え、何すか、これ」

「健康食品店で買ったの。漢方薬が入った、体にいいジュースよ。わたし、最近凝っているの」
「墨みたいに真っ黒ですね」
「美味しいから試してみて」

そっとグラスに口を付けてみる。
胸焼けするように甘く、薬のような匂いがする。
しばらく我慢して、半分ぐらい飲んだところで、限界になった。
「!!」
むっと吐き気が沸き起こり、俺はむせて、咳き込んだ。
グラスの中身が、服と床にかかる。

「大丈夫?実くん」
「ゴホゴホ…すいません」
「気分が悪い?」
「はい」
「吐きそう?」
「そっか
でも…、
これ、もっと飲んだほうがいいと思うわ!」

「!?」

突然、千春さんがすごい勢いで俺に掴みかかってきた。
不意のことで俺は動揺して、何もできなかった。

次に千春さんは俺の頭をひっつかんで、
ジュースのボトルの先を、無理やり口に含ませてきた。
黒い液体が勢いよく喉に流れこんでくる。

またしても、耐え難い吐き気。

「ぐわっ」
俺は床に伏せて大量に嘔吐した。
胃が痙攣して何もかもを押し出してしまう。
さっき食った魚が、全部床に撒き散らされた。

数十回咳き込んで死にそうになった。

涙目で見上げると、千春さんが静かに俺を見ていた。
千春さんはゲロで黒く汚れていた。


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