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作品名:汚水 作者:tomosibi

第37回  
塗装の剥げた扉の前で、真理恵は俺に尋ねた。

「実くん、千春と一度ここへ来たのよね?」
「あ、ああ。食事を、人魚を、食わしてくれるって…」

扉に体を預けながら、真理恵は目を細める。睫毛が長い。

「で、実くんは、どこまで見た?」
「えっ?」
「部屋の中。どこまで見たの?」

「どこまでって…俺、飯食っただけだからさ、狭いキッチンだけだよ」
「ふーん。じゃあ、他の部屋は見せてもらえなかったのね」
「…ああ、そうだな、すぐ帰ったし」
「お風呂場は?」
「確か…」

風呂場の前の扉になぜか立ちふさがった千春さんと、
それに対してブチ切れた俺のことを思い出す。

「入らせてもらえなかった」

真理恵はますます目を細めた。

「へーえ」

沈黙

「じゃあ、実くん、今日が初対面ってわけなんだね?」
「は?誰とだ?」
「うふふふふふふふふふっ」

がちゃがちゃ。
ばん!

真理恵は、扉を開け放った。
「うっ」

黴臭さと、汚水の匂いが、ぷん、と立ち込める。

「全部全部全部全部見るといいよ!実くん!」

薄暗い。中は真っ暗。俺は、わけもわからないまま、一歩踏み出した。


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