俺の右手を、 やわらかい、真理恵の左手が包む。
悠々と歩き出す真理恵の横顔に向かって、 俺は、千春さんのことを聞いてみた。
「なぁ…」 「ん?なあに」 「千春さん、どうなった?」 「あはっ。実くんと汚水が飲みたかったけど、 叶わなかったから、ちょっと怒ったんじゃないかな」
真理恵は前を向いたまま、明るい声で答える。
さっきの悪夢のような情景が思い出される。 沼。バシャバシャ。黒い水はね。腐臭。蛇のような笑顔。
「千春さん、あの顔は…どうして…?」 「うん。ああ。あれね。大丈夫よ」 「大丈夫って」 「千春は、自分から望んでああいうふうになったの!」 「自分から?」 「そ。自分から」
ふいに真理恵が振り返って、俺の顔を覗き込んで来た。 そして、俺の唇に軽く人差し指を乗せる。
「実くん、千春と同じ顔してる」
びくっとした。両手で顔をまさぐる。 ぬるぬる。ぐにゃぐにゃとした肌触り。人間の顔の皮ではない。気持ち悪い感触。
「俺、俺、俺の顔、どうなってるんだよ。真理恵」 「…」
「おい」 「実くん」 「何だよ」 真理恵は俺の顔の前で、自分の鼻をつまんで言った。
「あなたが喋るとすっごーく生臭い。ちょっと黙ってて」 「!!」
俺は一瞬握りこぶしを作った。が、理性で抑えた。
真理恵は、またしてもにこっと笑う。
「今から行くところには、全身が映る鏡も、ぬめりを落とすお風呂もあるよ。 だから、とにかく、ついて来て!」
…確かに、このあたりには顔を移すものが無い。 細い細いあぜ道が続くのみ。 俺は、いつの間にかこんな田舎道に走り出てきてしまっていたのだなぁ。
「…いや、ちょっと待て…。 今から、携帯のカメラで俺を撮ってくれよ。頼む」 「くすくす。見たいの?」 「…見たい」 「じゃ、実くん、携帯貸して!」
真理恵に携帯を手渡すと、真理恵は笑いながら、俺の顔に向けてシャッターを押した。
「ほい!出来た」
俺は、恐る恐る真理恵から携帯を受け取る。
そして、そこに移しだされている俺の顔のアップは…
「!!!!!!!!!!!」
俺は声にならない悲鳴を上げた。 俺はそのグロ画像を見て声にならない悲鳴を上げた。
携帯を放り出す。ゆっくりと地面に落下する。
真理恵はその俺の驚きように、腹をかかえて笑った。 その声は蝙蝠の声のように、上空に消えてった。
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