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作品名:汚水 作者:tomosibi

第33回   33
俺の右手を、
やわらかい、真理恵の左手が包む。

悠々と歩き出す真理恵の横顔に向かって、
俺は、千春さんのことを聞いてみた。

「なぁ…」
「ん?なあに」
「千春さん、どうなった?」
「あはっ。実くんと汚水が飲みたかったけど、
叶わなかったから、ちょっと怒ったんじゃないかな」

真理恵は前を向いたまま、明るい声で答える。

さっきの悪夢のような情景が思い出される。
沼。バシャバシャ。黒い水はね。腐臭。蛇のような笑顔。

「千春さん、あの顔は…どうして…?」
「うん。ああ。あれね。大丈夫よ」
「大丈夫って」
「千春は、自分から望んでああいうふうになったの!」
「自分から?」
「そ。自分から」

ふいに真理恵が振り返って、俺の顔を覗き込んで来た。
そして、俺の唇に軽く人差し指を乗せる。

「実くん、千春と同じ顔してる」

びくっとした。両手で顔をまさぐる。
ぬるぬる。ぐにゃぐにゃとした肌触り。人間の顔の皮ではない。気持ち悪い感触。

「俺、俺、俺の顔、どうなってるんだよ。真理恵」
「…」

「おい」
「実くん」
「何だよ」
真理恵は俺の顔の前で、自分の鼻をつまんで言った。

「あなたが喋るとすっごーく生臭い。ちょっと黙ってて」
「!!」

俺は一瞬握りこぶしを作った。が、理性で抑えた。

真理恵は、またしてもにこっと笑う。

「今から行くところには、全身が映る鏡も、ぬめりを落とすお風呂もあるよ。
だから、とにかく、ついて来て!」

…確かに、このあたりには顔を移すものが無い。
細い細いあぜ道が続くのみ。
俺は、いつの間にかこんな田舎道に走り出てきてしまっていたのだなぁ。

「…いや、ちょっと待て…。
今から、携帯のカメラで俺を撮ってくれよ。頼む」
「くすくす。見たいの?」
「…見たい」
「じゃ、実くん、携帯貸して!」

真理恵に携帯を手渡すと、真理恵は笑いながら、俺の顔に向けてシャッターを押した。

「ほい!出来た」

俺は、恐る恐る真理恵から携帯を受け取る。

そして、そこに移しだされている俺の顔のアップは…

「!!!!!!!!!!!」

俺は声にならない悲鳴を上げた。
俺はそのグロ画像を見て声にならない悲鳴を上げた。


携帯を放り出す。ゆっくりと地面に落下する。

真理恵はその俺の驚きように、腹をかかえて笑った。
その声は蝙蝠の声のように、上空に消えてった。


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