「えっ」
俺は首筋がひやっとした。
「父さん、俺だよ、みのるだよ??お父さん???」
しかし言葉はもういちど繰り返された。
「死ね。そのまま死んでしまえ。化け物が!!」 「父さん」 「お前なんか…。お前なんか、糞の役にも立たないじゃないか。 キヨコを殺すなら殺しちまえばよかったんだ。 中途半端に怪我させやがって。 皆みんなみんなみんなどいつもこいつも俺に迷惑ばかりかけやがる。
全部お前のせいだ!! お前なんか生まれてこなければよかったんだ!!!」
キヨコ。それは母さんの名前。 キヨコを、殺してしまえば、よかった??? そして、俺、生まれてこなければよかった? …一番辛い状況で一番言われたくない人に一番言われて辛い言葉を突然浴びせられ、 俺の脳内はクラッシュした。
「父さん!どうしちゃったんだよ、助けてよ、父さん!!」 「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ ばけもの!!!」 「お父さん」
「おい、みのる。真理恵に替われ」 「えっ」 「真理恵ちゃんだ。真理恵ちゃん真理恵ちゃーん俺は今真理恵ちゃんと話がしたいんだよぉおお」 「真理恵とは、さっき、はぐれて…」 「嘘だ。隠すな。そこに居るはずだ。あ〜、真理恵ちゃん真理恵ちゃん真理恵ちゃん。今の俺の心を分かってくれるのは、真理恵ちゃんだけだ。 本当に分かってくれてるのは可愛い可愛い真理恵ちゃあんだけなんだよぉおおおおおお」
「おい、親父!!」 …親父のすすり泣く声とぶつぶつ言う声が耳元から聞こえてきて、 気持ち悪くなり、俺は少し携帯を耳から話した。 親父は取り乱した様子で、絞め殺されつつある鶏のような声で呟き続ける。 「……替われよーー…あああ真理恵〜…怖いよ怖いよ怖いよ怖いよもう我慢の限界なんだ…化け物と話したくないよー真理恵ちゃーんわかってよー会いたいよー真理恵〜」
「…」 俺はヌルヌルした右手で携帯の通話終了のボタンを押した。
ぱちん。 携帯を閉じる。 思考がショートしている。
膝を落とす。蛍光灯の下で。うずくまる。
親父が変だ。 母さんは怪我したままどっかいっちゃった。 千春が変だ。 みんな変だ。 俺の体も変だ。 どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。 おとーさんもおかーさんもいなかったらボク誰も頼れる人いないよ。 こんな時どうすればいい。どうすればどうすればどうすれ―あっ
涙が、ぽろりと右目から流れ落ちた。 と思ったら涙じゃなくってぼくの右目がどろりとアスファルトの上に腐り落ちた。
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