俺はとっさに、沼と逆の方向を向いて走り出した。
「アァー!マッテェエエエエエエエエエ!」 「みのるくん、待ってよ!」
嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ! 怖い!怖い!怖い!怖い!
林の中を、走る。走る。走る。 枝に引っかかって数箇所抉れたけれど気にしない。 走る走る走る。 走って…どこまで?
よろめきつつも、全速力で走り続けて、 やっと公道まで出られた。 息絶え絶え。
街灯が頼りなくチラチラ光る、その下で、かがみこむ。
そうだ、俺、携帯…。
ズボンの後ろポケットから、携帯電話を取り出す。
誰かに、そうだ、連絡、しないと。 震える蛇の手で、携帯を開く。
異常なことが起こってるって、伝えなきゃ。 誰に?
誰に電話しようか。
まず、母さん…、大怪我して、飛び出して行って、大丈夫なのか? かけてみる……………………………………………………つながらない。
あとは… 警察? 警察に、何て言えばいいんだろう? そもそも、被害者って誰?…わからない。わからない。 じゃあ、病院? 俺の右手を見る。 …皮膚呼吸をしているのか、ゆっくり開いたり閉じたりしている無数の鱗を眺める。 これ、病気? いや、呪い? 何とかなるのか? 手を切断することに、なるんじゃないか?
父さん? そうだ、とりあえず、お父さんだ、お父さんにむかえにきてもらえばいいんだ。 ……… 数回、コールしても向こうから切られてしまったようなのだが、 11回目にやっとつながった。
安心して、まくしたてる。 「父さん!俺、あの、手が、ヤバイことになっててさ、あと、千春さんも、沼で、人魚になってて、あの…」 「…」
沈黙。相手の息遣いが聞こえる。
「父さん、俺、誰に頼ればいいか、わからない、どうしよう」 「…」
数十秒後。 父さんから、静かに発せられた言葉に、俺は、びっくりした。
「死ね。化け物」
だってさ。
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