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作品名:汚水 作者:tomosibi

第29回   死ね
俺はとっさに、沼と逆の方向を向いて走り出した。

「アァー!マッテェエエエエエエエエエ!」
「みのるくん、待ってよ!」

嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!
怖い!怖い!怖い!怖い!

林の中を、走る。走る。走る。
枝に引っかかって数箇所抉れたけれど気にしない。
走る走る走る。
走って…どこまで?

よろめきつつも、全速力で走り続けて、
やっと公道まで出られた。
息絶え絶え。

街灯が頼りなくチラチラ光る、その下で、かがみこむ。

そうだ、俺、携帯…。

ズボンの後ろポケットから、携帯電話を取り出す。

誰かに、そうだ、連絡、しないと。
震える蛇の手で、携帯を開く。

異常なことが起こってるって、伝えなきゃ。
誰に?

誰に電話しようか。

まず、母さん…、大怪我して、飛び出して行って、大丈夫なのか?
かけてみる……………………………………………………つながらない。

あとは…
警察?
警察に、何て言えばいいんだろう?
そもそも、被害者って誰?…わからない。わからない。
じゃあ、病院?
俺の右手を見る。
…皮膚呼吸をしているのか、ゆっくり開いたり閉じたりしている無数の鱗を眺める。
これ、病気?
いや、呪い?
何とかなるのか?
手を切断することに、なるんじゃないか?

父さん?
そうだ、とりあえず、お父さんだ、お父さんにむかえにきてもらえばいいんだ。
………
数回、コールしても向こうから切られてしまったようなのだが、
11回目にやっとつながった。

安心して、まくしたてる。
「父さん!俺、あの、手が、ヤバイことになっててさ、あと、千春さんも、沼で、人魚になってて、あの…」
「…」

沈黙。相手の息遣いが聞こえる。

「父さん、俺、誰に頼ればいいか、わからない、どうしよう」
「…」

数十秒後。
父さんから、静かに発せられた言葉に、俺は、びっくりした。




「死ね。化け物」

だってさ。


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