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作品名:汚水 作者:tomosibi

第25回   あたし、人魚
「ちはる!」
ひときわ大きな声で叫んでみる。

ぼこっ

ぼこぼこぼこ

口元の水面が、またしても大量の泡を出した。
やっと千春さんから反応が返って来たぞ!

『ああああああああああああ〜!』
千春さんは婆みたいな声で鳴いた。

「千春さん、こんなとこで何やってるんですか!
そんな、頭まで水に漬かって…」

『みのるくーん』
「千春さん!」
『こっちおいでよー』
「えっ!」

足元から千春さんまで、3メートルはありそうだ。
…水はぬらりと濁っているが、決して浅くは無いように思える。
…一歩踏み出す勇気は出なかった。

「おい、まりえ!
この沼、どのくらい深いんだよ?」
「みのるくん、愚問だよ。
兎我沼は底なし沼なんだよ。

学校で習わなかった?くすくすくす。

今まで沢山の人が、この沼で亡くなってきたんだよ。

だから、千春さんの立っている場所も
正真正銘、底なしの真っ暗闇!」
まりえはへらへら笑っている。

…畜生!何なんだよ!!

「千春さん!足、付いて無いんですか?
そのうち溺れてしまいますよ!
沈まないうちに、早く、こっちに…」

ばしゃっ!ばしゃっ!
千春さんが暴れる。そして、
『うわああああああああああああああああああああああああ〜!!!!!!!』
また婆みたいな声で叫んだ。
まるで、これは…、歓喜の叫び!?

『みのるくんー』
「!?」
『こっちおいでよーあははははは…ゴボッゴボゴボゴボゴボゴボゴボッ』

ばしゃっ!ばしゃっ!

黒い飛沫がこっちにまでかかる。

何なんだ、おかしいよ!
…………怖い!!

千春さんは歓喜しながら叫ぶ。

『みのるくん!
だいじょうぶ、だいじょうぶ!
あはははははは!

あたし、人魚!!
あたし、人魚だから!!

やっとわかったの!!!
あたし、汚水の人魚!!!

あたまのさきからあしのさきまで
しずんじゃえばいいのよ
くちからも、はなからも、うふふ…
ゴボゴボゴボゴボゴボゴボッ
たくさん、すいこんで、うぇへへへへへへへへ
この汚水は、とても、居心地がいい。サイコウ!!

だーかーらー、
みのるくーん、みのるくーん、みのるくーん、みーのーるーくーーーーーん』

ゴボゴボゴボゴボゴボバシャバシャバシャバシャ
『みのるくーん
あーんーたーもー
こっちに、おいでよぉおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーー!!!!!!!』

千春さんは水の中で暴れながら、空を見上げて絶叫した。
闇の中、木々がびりびりと共鳴する。

俺は、呆気に取られて、立ち尽くす。

隣でまりえは、幸せそうに笑っている。


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