…しばらく、ゆらゆら揺れる沼の表面を見つめていた。 すると、中心のあたりから、泡が沸いてきた。
『…みのる…』
えっ。 まりえの顔を見るが、 まりえは無表情で沼を見つめている。
「なあ、まりえ、今の声、千春さんの声だったよな」 「…」 まりえは数メートル先の、泡のあたりを指差した。
泡の中、白く、ぼんやりと浮かび上がってきたのは、 千春さんの頭だった。
「!!」
千春さん。 が、沼の中に居る。
首から上だけが水面に出ている。 暗闇の中、ふたつの目が、黒い水の中から覗いている。
『みのる』 彼女の口元は水面ぎりぎりにあって、 千春さんが喋ると、ぼこぼこと泡がたつ。
「千春さん!?」
何やってるんだ!? こんな夜の、沼の中で。 溺れているのなら、助けないと!
「大丈夫なんですか!」
…二つの目は、じっとこっちを見ている。
苦しんでいるようすは無い。 もがいているようすも無い。 無表情で落ち着いた目が、月明かりで黄色く光っている。 黒く濁った水面は、静かに揺れ続ける。
「おい、まりえ、 千春さん、どうしちまったんだよ」 「…人魚になれたんじゃない?」
はあ? 何言ってやがる。
でも、この千春さんは、どう見ても異様で…。
「千春さん、千春さん??」
返事は無い。 死んでいるわけでもない。 ただ、 …二つの目は、汚水の中から、じっとこっちを見ている。
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