「千春の行方も、お父さんのこともお母さんのことも、 あなたが食べた肉のことも、全部おしえてあげるから、 おいで、実くん!」
まりえは俺に玄関を出てついてくるように促した。 …父さんは一瞬何か言おうとしたが、 まりえが一瞥すると、暗くなって、黙った。
「なあ、どこへ行くんだ」 「見せたいものがあるって、昼間に、言ってたでしょ」
まりえと二人で、夜道を歩く。 街灯に蛾がまとわりついてる。
まりえは俺の数歩先をてくてくと歩き続ける。 こちらを振り向くこともせずに、まりえは歩き続ける。
田舎道は家の明かりと街灯以外に何も照らしてくれない。 細い道を歩くにつれ、どんどん俺達は暗闇に囲まれていく。
「おい、見せたいものって何なんだ」 「…」 まりえは相変わらず振り向いてくれないが、薄く笑ったような気がした。
「ヘンゼルとグレーテル」 「えっ」 「こうやって歩いてると、私たちはヘンゼルとグレーテルみたい」 「…そうかな」 「そうよ。捨てられた兄妹みたい」
たどり着いたのは、林の中の、沼のほとりだった。
ぷん、と腐敗臭が鼻に入ってくる。 「ああ、ここは…」
兎我沼(とわぬま)。 町外れの林の中、ひっそりと存在する沼。 いつもドロドロと暗くぬめっていて、底なしの沼。 幼いころから、遊びに行かないように言われてきた場所だ。 危険だからってことで、ハイキングのコースからも外されていて、 俺は、多分、ここに来るのは初めてだ。
「兎我沼に、何があるんだよ」 「…まあ見ててよ」
まりえは足もとの石を拾い上げると、 両手で沼の中に放り投げた。
ばしゃっ
不気味な飛沫がかかって、俺は顔をしかめた。
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