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作品名:汚水 作者:tomosibi

第23回   へんぜる
「千春の行方も、お父さんのこともお母さんのことも、
あなたが食べた肉のことも、全部おしえてあげるから、
おいで、実くん!」

まりえは俺に玄関を出てついてくるように促した。
…父さんは一瞬何か言おうとしたが、
まりえが一瞥すると、暗くなって、黙った。

「なあ、どこへ行くんだ」
「見せたいものがあるって、昼間に、言ってたでしょ」

まりえと二人で、夜道を歩く。
街灯に蛾がまとわりついてる。

まりえは俺の数歩先をてくてくと歩き続ける。
こちらを振り向くこともせずに、まりえは歩き続ける。

田舎道は家の明かりと街灯以外に何も照らしてくれない。
細い道を歩くにつれ、どんどん俺達は暗闇に囲まれていく。

「おい、見せたいものって何なんだ」
「…」
まりえは相変わらず振り向いてくれないが、薄く笑ったような気がした。

「ヘンゼルとグレーテル」
「えっ」
「こうやって歩いてると、私たちはヘンゼルとグレーテルみたい」
「…そうかな」
「そうよ。捨てられた兄妹みたい」

たどり着いたのは、林の中の、沼のほとりだった。

ぷん、と腐敗臭が鼻に入ってくる。
「ああ、ここは…」

兎我沼(とわぬま)。
町外れの林の中、ひっそりと存在する沼。
いつもドロドロと暗くぬめっていて、底なしの沼。
幼いころから、遊びに行かないように言われてきた場所だ。
危険だからってことで、ハイキングのコースからも外されていて、
俺は、多分、ここに来るのは初めてだ。

「兎我沼に、何があるんだよ」
「…まあ見ててよ」

まりえは足もとの石を拾い上げると、
両手で沼の中に放り投げた。

ばしゃっ

不気味な飛沫がかかって、俺は顔をしかめた。


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