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作品名:汚水 作者:tomosibi

第20回   人魚弁当
まりえへの怒りも相まって、
俺はぐらぐらになった。
目が霞む。

「実くん、わたしを振ったつもりなの?」
「ああ…そうだ、お前を振ったからな。 じゃあな」

振り向きざまに、めまいが再び起こり、
情けないことに、倒れそうになった。
とっさに、まりえが俺の肩を支えた。
…やわらかい手だった。

「あ…ありがとな、まりえ」
「歩けないの?」
「そうかも」
喋りかけて、
吐き気。
ぐるる、と声をあげて
俺は少し、お腹の中身を吐いてしまった。

ぜえ、ぜえ、と息をする俺の口を、
まりえは白いハンカチでそっと拭った。

間近に、まりえの顔。

「あのね、実くん、
黙ってたんだけど、
最近ね、あなた…
とっても、

生臭いわ」

にこお、と笑う、まりえは
この上なく不気味に見えた。

「とっても生臭いの
まるで、人魚みたいに」

生臭い?
俺が?

…そういえば…
俺の吐いたものと
俺のお腹の中から
生臭い、匂いがする。

魚じゃない。
腐った油を煮詰めたような。
排水口から漂うような。
人間の肉ではない 魚の肉でもない
相容れない存在。
食べてはいけない存在。
人魚の肉の、匂いがする。

この匂いは、
女性たちが俺に食わせてきたものと、同じ匂い。

そう、あのとき…
アパートで食った肉と、
中庭でまりえに食わされた肉、
あれは…
きっと同じ肉。

人魚の肉だったんだ!!

「まりえ、お前、俺に、食わせたろ。人魚」
くくくくく、とまりえが笑う。
そして耳元で刺すようにささやく。
「人魚のフライ。人魚の煮物。
人魚弁当!
…半分しか食べてくれなかったけどね」

「!」
またしても、嘔吐した。
立ち込める、生臭さ。
ああ、人魚の匂いだ。人魚の匂いだ。
死の匂いだ。

わるいものをたべたからおれのおなかのなかはくさっているんだ!!!


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