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作品名:汚水 作者:tomosibi

第2回   あやしげなにく
結構、長い時間が経った。

愉しい、愉しい、薄暗い ブカツの時間が過ぎてった。

埃っぽいカーテンは閉めたっきり。
俺達が何をやってるか、誰も知らない。

ぼろぼろの小さなソファーに、強引に二人で寝転んで
ごきげんな俺の耳元で、唐突に千春さんがささやいた。

「ねえ。実くん」
「何すか」

「あのね、あなた、人魚に興味ある?」
「え?人魚って、…あの人魚っすか?」

「そう。人魚。世界中で、色んな目撃情報や、伝説があるでしょう。あの、人魚」
「人魚かぁ〜…。美人の人魚ってのは色っぽいかなあ。
でもやつらには下半身が無いっすからね。いくら美人でもそれは色々と問題が…」
「て、あなた、何考えてるのよ!」
「え、いや…すんませんで、何すか」

「人魚ってのは美女に限らないでしょう。
日本に神社にある人魚のミイラって、どれも超エグイじゃない?」
「あ、そっか」

部室のファイルにあった、いくつもの猿の干物みてぇな写真を思い出す。

「雄の人魚ってのも居るのかもしれないですよね。
人魚、ていうか半漁人ぽいやつも見たことあります。」
「そ。まぁ人魚の外見は、この際どうでもいいんだけどね。
実くん、人魚といえば、何を思いつく?エッチなこと以外で」

「…人魚の、肉、かな」
「そ、人魚の肉よね!それでこそ怪奇研究部員」
「…幽霊部員ですけど」
「ん、まぁ確かにあなたは癒し系、じゃなくて卑し系担当部員なんだけど、
まあそれはどうでもよくって…、あのね、人魚の肉、食べたい?」
「はあ?」

「人魚の肉って、食べたらどうなるか知ってる」
「えっと…確か、何かの漫画だと、『不老不死』とか」
「そう。それに、この地方の民話でも伝えられているわよね。
人魚の肉は、人間を不老不死にさせる力がある」
「そんなのあったらすごいっすよね〜!
千春さんのスレンダーボディが衰えないなんて素晴らしい。…いてて」
おれは耳を引っ張られた。千春さんの頬が少し赤らむ。可愛い。

「でね、それがね」
「はい、人魚の肉が」
「手に入ったのよ!食べに来る?」
「まじっすか!」

「食べたい?」
「うーん…。不老不死か…」
「そ。若いまま、ずっと生きていられるのよ」
「この状態のまま、か…。色々な部分において、ゲンキすぎて問題があるかもな。
でも、汚いおっさんにならなくて済むのは、やっぱ嬉しいかなあ」
「あのね。実くん。ずーっとゲンキでいていいのよ。
わたしも、ずーっと今のままで居てあげる。一緒に居てあげるから、ね」

千春さんの白い腕が俺の首に回される。
ドキドキする俺の耳に唇を寄せて、また小声で囁かれた。

「ねーぇ、実くん。お願い。
私と一緒に人魚の肉を食べて?
私たち二人、ずーっとずーっと生き続けましょうよ。
私は、いつでも、ずーーーっと、あなたと一緒に居たい。
いつでも、ずっとずっと、実くんの相手をし続けてあげるから」
千春さんは体を離すと、俺の顎をちょん、とつっついた。俺は真っ赤になった。

「一緒に不老不死になって。毎日毎日、二人で楽しく過ごしましょうよ」
「…それもいいかも、しれないですね」

思わずにやにやしながらも、あれ?
俺の胸にふとよぎる哀しみ。

何が悲しいのかよくわからなかったけど
たぶん、あの子を思い出したからだろう。
「『二人で』楽しく過ごしましょうよ」か…

俺と千春さんが不老不死になって、いつまでもいつまでも若く、二人で楽しく過ごしたら、あの娘は泣くかな?
あいつなら、ひとり老け行く肉体を抱えたまま、
いつまでも俺を待っていることもありえるな…。
でも俺達は永遠に若く、真理恵は過ぎる時間の中でただ老い、死んでいく。
あのロリ体型が喜ばしいのは、今の時期だけだと思うし。可哀相に。
俺のような男を愛したばっかりに。ごめんよ。
真理恵のこともある一定の時期までは…せめて30前半までは…可愛がってあげたいんだけどな。

なんて、俺の頭の中は、不道徳なのか律儀なのか分からない思考を巡らしていた。

しかしながら!
目前にある千春さんの首元は驚きの白さで、金色のネックレスがこれまた映えるのであった。
俺は、いつも、この千春さんの肌の白さを目の前にすると、
理論的な思考ができなくなってしまうのであった…。

「人魚の肉、かぁ…。不老不死、かぁ〜…。
うーん、でも、それ本物なんすか?」
「さあ!」
「おいっ!」
「知らないよ〜。
あのね、この部の、ОBの先輩に教えてもらった、サイトで買ったの。
輸入系の通販サイトなんだけどね。」
「輸入系の通販サイトって…」
「もちろん変態的なサイトだったよ☆接続中、私のウィルスバスターが大活躍してたわ。
他にも、媚薬とか波動放出機とか、呪術のキットとか、
面白そうなグッズがいっぱいあったんだけど、
私と実くんには、人魚の肉が一番素敵かしらって思って、即注文をしたのよ。
やっと今日、届いたの」
「さすが怪奇研究部の部長っすね。やることがぶっ飛んでます。」
「ありがとう。はじめて部長っぽいことをしたわよー!」
「いや、誉めてないっす」
「あははっ」

千春さんはすっとソファーから立ち上がった。
ボタンを留め、髪と衣服の乱れを直す。

そして、ひらり、と俺の方に向き直って、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「さ、これから私の家に行きましょうよ!
あのね、私は一人暮らしだから、ね、遠慮なく来ていいのよ。
今日は、特別に、最愛の後輩であるあなたに、人魚料理をごちそうします」
「おぉー!楽しみ、楽しみぃ!」

言っておくけど。
…もちろん俺達は、そんな伝説をマジに信じてたわけじゃないさ。

ただひっそりと、
二人っきりで、そういう、怪しげな肉を食うっていうのは…、
退廃的で良いんじゃないか?

きっとそういう遊びなんだぜ。退屈な日常に、ちょっとした不気味とスリルを味わうための、大人の遊び。
こういうとこ、さすがは千春さんだなーって思う。
大人の女性ってやつは、大人の遊びを考えつくものなのだ。

何だか、ゾクゾクするぜ。

…万が一、俺達が不老不死になったとしたら…
それはそれで、面白そうじゃねえか。


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