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作品名:汚水 作者:tomosibi

第17回   人殺しに
いくつかの問いを発しようとした俺の言葉を遮って、
まりえが一段と大きな声でこう言った。

「それはさておき、実くんは、人殺しに疑われちゃうね」

えっ
何言ってるんだ、こいつ。

「千春さんは一日見つかってないだけじゃないか。
死んでるとか、まして殺されてるとか決め付けんなよ」
「あぁ、そうだったね。ごめん、ごめん」
まりえは屈託の無い笑顔を浮かべる。

「つい、私の中で、千春先輩はもう居ないものとしていたわ」
「お前、千春さんのこと嫌いなのか?」
「そんなこと無いわよう。
千春のこと嫌いじゃない。
私にとって問題だったのは
千春が、あなたのこと好きだったってことよ」
「お前、まさか、千春さんに何かしたわけじゃないよな?」
「私には千春先輩は殺せないわよー」
「だよな、まさか」
「だって千春先輩は殺しても死なない。
人魚の肉を食った、不老不死の女、だからね」
まりえはわざとらしくウインクをした。
あどけない少女のその表情が、
今の俺には非常に凶悪に見える。

その時始業チャイムが鳴った。
チャイムの音が不自然に歪む。

視界がグラっと揺れて
突然、思考が停止した。
…やばい、耳鳴りとめまいがしてきた。
やっぱり今日も体調が最悪だ。
このまま動き回っていると、倒れてしまいそうだ。

「俺、今日はもう、帰るわ…」
「ええ!もう帰っちゃうの?
放課後、見せたいものがあるって言ってるのにい」
「…ごめん、帰る」
「千春のアパートに行くつもり?」
「いや、家に帰る。でもまず病院に行く」

病院、と聞いてまりえは露骨に眉をしかめる。
「病院なんて行かなくっていいわよ」
「…何でお前がそんなこと言うんだよ」
「わかるからよ」
「…はあ、何が?」
「病院に行っても治らないからよ」


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