俺の名前はリック。その昔は荒くれ者のリックだとか、大酒のみのリックだとかよく言われた。 そんな俺も昔は機械の整備士をしていた。そしてあの時は俺はすべてを持っていた。 夢も、希望も、仲間も、そして家族も。毎日暖かい家に帰り、うまい飯を食っていた。 だが、今は汚い町で汚いカッコでゴロツキのように生きている。俺みたいなゴロツキはその辺にゴロゴロいる。 ある意味一人じゃないが、関わりはなく、孤独には変わりはない。 下手をすると、他の連中に食いもんや仕事をとられることさえある。そのくらいこの町「ロスノルマ」は浮浪者であふれかえっていた。
ことの始まりは今から15年前、俺はこの町から遥か遠くの国、クロマ・オアシスで暮らしていた。国は厳しい経済格差にあったが、俺と家族はごく普通の生活をしていた。 決して稼ぎは多くなかったが、今思うと幸せだった。仕事に打ち込むしか能のなかった俺を、支えてくれた家族がいた。 なのに、このザマはいったい。
ボーっとしていると路地裏から、いや、大通りから大声が聞こえた。 「オメェ俺の荷物取っただろ !!」 「しらねえよ」 「とぼけんじゃねえ!」 どうやら喧嘩が始まったようだ。 「またか・・・・」 リックは路地裏から覗いた。二人の男がにらみ合っている。一人は大柄な中年の男、おっさん。もう一人は線の細い若者だ。おそらく、喧嘩吹っ掛けた男は前者。 若者のほうはあきれた顔で、おっさんの相手をしている。 「この野郎・・・・、ふざけんな!」 喧嘩を吹っ掛けた男はいきり立ち、相手の男の顔を殴った。殴られた男は衝撃で、背後のゴミの山に倒れた。 「詫びとして、この荷物はもらっていくぜ」 殴った男はそう言うと、若者の荷物に手を掛けた。
「あのおっさん最初から手ぶらだな・・・・。まあ、運が悪かったな。あの様子じゃ、おおかた無知な旅行者だな。きっと」 すぐに察しがつき、リックはボソッとつぶやいた。 「まあ、この町じゃよそモンは食いもんだからな」 リックは同情しながらも、その若者を助けることなく、ただそのまま見ているだけだった。今助けたら、すぐにあれがわが身だろう。 ところが、その男はリックの思ってもいない行動に出た。 「まてよ。話は終わってないぜ」 若者は立ち上がり「さすがに殴られっぱなしじゃ、かなわねえよ」 なぐられた男は頬をさすりながら、殴った男に呼びかけた。 「俺の無実も証明されていないんだぜ?第一、証拠もないのに有罪はありえねーだろ」 「うるさい!これが筋ってもんだろ!」 「筋?」 「それに動機もないわけだしさ?俺、金はあるしさ、家もある。あんたからもの盗むほど生活こまっちゃいねーよ」 「ぬうううぅぅぅぅ・・・・・・!!」 男の頭にみるみる血が上っていく。 「この野郎・・・・!もういっぺんお見舞いしてやる!」 大男はふたたびこぶしを振りかざした。 「悪いが今度は油断しないぜ!」 若者は一歩後ろに下がり、男の攻撃をかわす。ナックルを付けた拳を握り締め、構える。 「もいぺんくらえ!」 大男がすかさず間合いを詰め、もう一撃入れてくる。 若者はまたも俊敏に動いた。男の動きを読みながら、攻撃をしゃがんでかわし、右に回り、男の背後に回った。 「何っっ!?」 大男は慌てて後ろを振り返るが、そこには自分の背後にまわったはずの若者の姿がない。 「いない・・・・!だと!?」 そして、大男に衝撃が襲ったのは、またその背後だった。つまり最初の位置の正面からのストレート(後頭部に、だが)を食らわせた。
ドゴッ 「うげぐっ!!」 男は項垂れそのまま気絶した。 「うそだろ・・・・」 唖然と光景を見ていたリックは、ポカンと口を開けていた。本当に一瞬の光景だった。すばやい動きでなおかつ、急所を突いた的確な一撃。 プロボクサーかなんかだろうか?それにしてもまるで、喧嘩に慣れたような相手の仕方だった。 「フゥ・・・・」 勝った男は余裕な表情で背伸びしている。 「ところで、そこのオッサン」 リックはギクリとした。俺のことか。というか、気づかれていたか。俺はわざとらしく、周りをキョロキョロした。 「そこの頬に傷のあるオッサン。あんただよ」 「あっ、やっぱ俺ね」 リックは顔の古傷を擦りながら言った。 「ちょっとたのみがあるんだけどさー。このぶったおれてるおっさんどうすればいい?」 「はっ?」 若者は先ほど自分がノックアウトした大男を指差しながら言う。「このままほっとけないでしょ?」 「じゃあ、最初からあんなパンチ食らわせるなよ」 リックは呆れて言った。 「それは不可抗力だよ」 「ほっとけばいいじゃねえか。もともとそいつはゴロツキだ」 「でも、ここじゃ人が通るから危ないよ」 リックはこの男にだんだん、イライラしてきた。 なんだ?なんだこの態度の変わり様。面倒な野郎だ。 リックはイライラを抑えつつ「じゃあ、そこの店の壁にでも寄せておけ」 と言った。 「OK、じゃあ、ちょっと手伝ってよ」 リックは大男の脇を抱え、「オッサンは、足もって」 と促した。 リックは言われたとおりに、大男の膝を抱え一緒に持ち上げた。 「よいしょ」 「おもてー野郎だな」 苦労しながらも、店の外の壁に男を持たれ掛けさせた。 「サンキュー。これ、お礼ね。あんた、金ないだろ?とっといてよ」 そう言って若者は小袋を差し出してきた。さすがに堪えていたリックも気分が悪くなった。 「あんた、ここがどんな町かわかってるのか?」 リックは男を睨み付けて言った。「ここはロスノルマだ。この町のほとんどの人間が浮浪者だ。つまり、お前とはま逆の人生を送っているやつばかりだ」 「それで?」 「お前みたいなのはこの町じゃ嫌われるってことだよ。じゃなきゃ、食い物にされるか、集られるかだな。とにかく、さっきみたいな目立つ行動はやめておくんだな」 「・・・・・」 若者はリックの言葉と睨みを真面目に受けているように見えた。 だが、すぐに表情を変えて言った。 「ご忠告ありがとう。だけど、俺って昔から性格悪いのなおらなくてね。けっこう正直にズバズバ言っちゃうみたいなんだよね」 若者は頭をかきながら笑った。「まあ、ちょっとは気をつけるよ」 リックには若者が聞いているのか、聞いていないのかわからなかった。 「まあ、とりあえずこれとっといてよ。俺、急ぎの用があるから失礼するよ!」 そういうと男は持っていた小袋をリックに押し付け、駆け足で走って言った。 「なんだあいつは・・・・」 リックはハァっとため息をついて、何気なく小袋を開けた。 「あっ、すげぇ・・・・」 リックは小袋の中身に驚き、そっと袋口を閉めた。 「ん?」 足元に目を向けると、さっきの若者の忘れていった荷物が置いてあった。 「やっぱ馬鹿だな。あいつ」 リックはボソッとつぶやき、その荷物を抱えた。
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