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作品名:世界の終わり 作者:yN

第2回   僕は美男子
 春だった。
 2ヶ月前は春で、事実、今はもう梅雨も終わろうとしている。詰まるところ3ヶ月経てば夏と言うことかもしれない。かもしれないではない。
 夏だ。そして春だった。事実として、春であった。
 ボクの春はといえば・・・、特に何も思い出すことがない。
 教室の後ろの方の窓際の席(まさにボクのような美形の主人公にはうってつけの席だ)は、閉め切った窓に映るボクの顔が見える。
 『美しい』
 入学当初何人もの女子がボクに近寄り、そして淡い恋心を砕かれる羽目になった。なんと言うことはない、美形だと言うことがこんなにも疎ましく思う思うイベントもない。
 ボクの美しさはボクだけのモノで、誰かのモノではない。そしてむしろそのレベルは公共物と言っていい。
 噂を聞きつけた女子生徒が何人も退去しては様々な方法でボクにその陳腐な想いとやらを告げていったが、ピンとくるような啓蒙活動は一つもなく・・・。そう、ボクには情熱を訴えかけ、そして同情票をとるようなやり方は苦手で愚物のやることであると思っている。
 公共物的なボクの美しさは次第に人の目をはばかるようになる。
 最初の一週間で学校中の女子の10%が本気の告白をボクにして、2週目から一月を書けてゲームが行われた。一月半が過ぎることには学校中の頭脳が集まって(もちろんこの学校は進学校だ)、ボクをどのように攻略するかという会議が開かれたと噂に聞いている。
 断っておくが、その時点で何人かの学校屈指の美女が投入された事を明記しておこうと思う。
 だが、その女子とてボクの女装姿を目にすることがあったときには消して美少女とは自分では認知しなくなっただろう。
 全く、くだらない遊びにボクは付き合ってしまったモノだ。
 そして2ヶ月が経つ頃には友達グループがきちんと形成され、ボクの上履きには画鋲が入るようになった。
 そして机の上の落書きも目立つようになった。
 僕としては特に放っておいても実害はあるが気が病むようなことはなかったのだが、コレがこのまま続くと思うと、退屈な毎日を手に入れることは出来ない。
 実働部隊(僕に熱心なファンクラブだ)を稼働させ、それを行っている一連のグループを突き止め、沈黙させた。
 この作業には3日しかかからなかった。全く張り合いがないと言って良い。
 この間にも何人かの残存女子と想いを振り切れない女子が数名僕に言い寄ってきたが、些末なことに過ぎない。
 そして二ヶ月半たった今。
 僕の一番嫌いな季節である梅雨に、唐突に異論亜モノが終わりのチャイムを鳴らした。
 詰まるところ、世界は僕に飽きた。
 窓に写る美しい顔が僕のモノでなかったら、このようなエキサイト(に見える)時間を過ごすこともなかっただろう。
 それなりにたのしくなかったわけではないと言うことを自分の意識の中に植え付けるべきだろうか?いや、そんな手もみをするようなことをするまねをする必要がどこにあるというのだ。
 実働部隊にはそれぞれ放課後デート(1時間半・デート費用は女子持ち)という条件の褒美を付けておいた。次から次から手を挙げるモノだから全く僕自身どのぐらいの時間を割かねばならないのかちょっと把握できない。
 高校にもなってゲイの気のある秘書を連れて歩くのも面倒くさい。
 『自立』という言葉が僕の脳内にふっとよぎったが、コレは僕の問題ではないのだという責任転嫁をすぐにした。
 責任をすり替えることをしなくては美しい僕を保つことは非常に難しい。
 誰にでもいい顔をしていれば勝手につけあがる。画鋲や机の落書きといった地味な活動もどんどんエスカレートしていくだろう。

 誰にも干渉せず、誰にも干渉されない。
 自由な国などどこにもない。 
 忌々しい中学時代に僕はそれを知った。
 いや、知らされることになったといった方が良いだろうか?あの魔女とも思えるような狡猾な手段を持って、平凡な女子生徒が僕をあんな目やこんな目に遭わせることになったとは僕が迂闊であったと認める以外に方法がない。


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