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作品名:宝石童話 作者:大澤 和樹

第1回   見えない宝石 <1>二人の盗賊
 町の中心地から少し外れた場所に、とある一角があった。

 どこから集まったもの達だろう。様々な民族、多種多様の硬貨、異質な言語、それでいてまるで違和感無く混じり合う。雌雄も静も無も動も、正邪すらさえ飲み込み交ざり、混じりあい、ひとつの形を形成していた。
 それは不思議な光景だった。

 色々な造りの家が立ち並び、町の繁華街にも負けず劣らぬ活気の市場は常ににぎわっている。
 そんな異種民族の集合地であるかのようなこの場所の、中心あたりに位置するだろうか。もとは白かったであろう石造りの色あせた家が、両隣の建物たちに圧迫されるようにひっそりと建っていた。
 そして_、その建物の二階、突き当たりの一室。さほど広くもないこの部屋の中に、一人の少年の姿があった。一見、年端もいかぬほどに若く見えるが、実際は十五、六才であろう。彼は扉に程近い椅子に座ったまま目の前の机に足を投げ出し、バランスを取りながら背後に大きくのけ反っていた。上を向いたままの瞳はきつく閉じられている。
 この辺りの気候は一年を通して暖かく、この少年もシャツ一枚という軽装である。
 窓は開け放たれていたけれど、周囲には建物の黄ばんだ壁しか見あたらず、わずかに吹き込む風も少年の淡い黄金の髪をちらりと揺らして消え尽きていた。同じ風が運んだのだろう、市場を抜けた生花の香りがかすかに部屋に入り込む。

 窓の外へ意識を向けた。
 路地で遊んでいる子供達の声が辺りに響きわたっている。ひときわ大きくなったかと思うと、足音をともないながらすぐさま遠ざかってゆく。
 ざわざわ。
 通り掛かる人の気配、犬の声、風の音、大勢の足音。耳を澄まして聞く音は様々な光景を浮かび上がらせる。

 _と、ひときわ甲高い靴音が聞こえてきた。障害物を避けながら走っているのか、音は一定に定まらない。通り過ぎるのを、一人静かに待っていたが、意表を突いて、足音は開け放たれた窓の下で突然止まった。

 夢かうつつか幻か_。

 先程まで壁という壁に反響しあっていた靴音は、まるで何物かに飲み込まれてしまったかのように数瞬のうち、消えていた。ほどなく_、階段を駆け上がる音が建物中に鳴り渡る。
 靴音の主の正体が知れた。この無遠慮なまでの走り様_。

 しばらくして、左手に位置していた唯一の扉が勢いよく開け放たれる。まだ瞳は暗色しか映さない。人特有の曖昧な気配がすぐそばまで近付いてきた。

 「寝てる場合じゃ無いぞ、宝(たから)」

 静けさを完全に打ち消すかのような声が頭上から降り注ぐ。そこでようやく瞼を開いた。いつもの見知った顔。南美(みなみ)の疲弊した顔が映りこんでいた。


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