そのウェブサイトは、ある筋から注目されていた。 サイトの名前は「ホイッスルブロアー・警鐘」。 その名が示すとおり、内部通報、いわゆる内部告発を掲載するウェブサイトだ。 インターネット上に掲示板を開設し、内部告発者に発言の場を提供している。 「公益通報者制度」の法律が出来た時に、通報者保護を謳って立ち上げられた。 そこに掲載される内容は、食品偽装・入札の談合・製品の危険情報・違法脱法行為等々、 多岐に渡っていた。 原則として判断基準の無い、セクハラなどの倫理に関するものは対象としなかった。 大はナショナルブランドの大企業から、小は無名の地場産業まで。 行政では全ての省庁から地方自治体に至るまで。 官民あらゆる分野を網羅した内部通報が掲示板に載り、不特定多数がそれを閲覧すること で、広く情報が発信されていた。 (これまでこの手のサイトはなかったので、ネットで認知される可能性は十分ある)
インターネットの特性と言ったらそれまでだが、掲示される情報は、かなり怪しげで、 無責任なモノが多かった。 クビになった人間による無責任な嫌がらせや、根拠のない誹謗中傷は日常茶飯事だった。 公正と言う基準で社会的に認知されている存在とは言い難く、ネット上にあるサイトとし ての評価・知名度もまだまだ低かった。 それはサイトの作り方や見た目の地味さとも相まっていた。 (このサイトは作りも下手で地味だったし、ネットでのアピールの仕方を知らないのだ) そうした状況にあっても地道に継続した活動を続けた事で、徐々にではあるがその認知度 は高まりつつあり、アクセス数も増える傾向にあった。 このサイトの中では、告発を載せる掲示板が賑わっていた。 当然のことだが掲載される内容の真偽について、サイト主催者は責任を負わない。 あくまでも投稿者の責任に於いて掲載する、と言う形をとっている。 しかも投稿者はほぼ全員匿名だった。 企業名や組織・個人を特定できる表現は規約違反で、削除の対象となっている。 ぼかした表現であっても投稿内容を読み込めば、たいてい場合それが何であるかを類推出 来るので、投稿者はそれなりに巧妙だった。 わざとルール違反を犯し、一瞬でも企業名を明示し、削除される事例も散見された。 そのようなケースでは発信者のPCが持つ固有の住所を示すIPアドレスを特定すること で、アクセス禁止措置が取られた。 インターネットに接続する時、接続するコンピューターなどの機器は、自動的に固有の識 別番号(IPアドレス)を持たされるのだ。 その程度のルールだったので、規制を潜り抜けて違反行為を続ける発言は絶えなかった。 (このへんはどの掲示板もイタチゴッコだ)
今このサイトを密(ヒソカ)に注目していたのが「証券監視委員会」だ。 この掲示板に掲載された内容に触発される形で何度か株価が変動し、取引の増減が見られ たからだ。ある意味、当然と言えば当然のことなのだが...... 告発内容に沿った形で、企業の不祥事が表沙汰になったことも実際あった。 中には事件性を指摘された組織の代表者が辞任に追い込まれたり、経営危機に陥った企業 もあったのだ。 (事実なのだから、とやかく言われる筋合いのものではない) アクセス数も少なく、サイト自体の社会的認知度は決して高くは無いのだが、毎日十数 件アップされる告発内容には、見逃せないものがあった。 告発と株が連動する事は当然あり得ることなのだが、あまりの反応の速さに「インサイ ダー取引」の隠れ蓑になっている恐れが考えられた。 株価が意図的に操作されているのでは? と言う恐れだ。 (それが意図的であっても証明できっこない。外部から勝手にこのサイトを利用させて貰 っているのだから、バレルわけがない) また注意深く観察すると、このサイトに連動する形でマスコミや関係官庁に対し、組織 的に働きかけている動きも観られた。何者かの意図を感じさせるものがあるのだ。 (半端じゃない金を掛けて調査し、確証つかんでから動いている。ダメ押しは当然だ) 厳密に言えば、犯罪には当らないケースとも考えられたが、意図的に仕組まれたものと思 わざる得なかった。 どこかの誰かが金儲けをしながら遊んでいる、そんな愉快犯的な存在が見え隠れする。
サイトの運営者は、技術系の国立大学に通う学生達だ。 運営主体は設立当初から明示されており、内容に偽りは見られなかった。 内部告発の問題が注目を集め、関連する法律が出来たとき数人の仲間で、ボランティア的 に運営を初めたのだ。 それが継続して今に引き継がれていると言う。 運営費は仲間のカンパや広告収入で賄われているのが実態だった。 いわゆるアフィリエイト広告と言われるもので、サイトに張り付けた広告経由で発生する 販売実績に応じて手数料が支払われるシステムだ。 調べてみてもその通りで、特定の背景を見出すことは出来なかった。 (当然だ、ないモノは見つかるわけがない) インターネット社会の通例通り、このサイトに投稿し発言する人間の殆どは、「通りす がりの**や、名無し」と言った匿名の人間ばかりだった。特定のニックネーム、ネット 社会で言ういわゆるハンドルネームや個人名を表記して参加する人間は皆無に近かった。 インターネットの匿名性を最大限生かした掲示板であるとも言えるが、それゆえ内容への 信頼性が損なわれるのもやむを得ないと言う、ジレンマも抱えることになる。 (匿名だから本当のことを話せるし、逆に無責任な嘘も言う、その辺はネットの特性だ) 学生達はなんとかしてこのサイトを、社会的に認知される存在に育て上げたいと熱望して いた。
■内部通報サイト:警鐘■→危険情報:掲示板→医薬関連:スレッド
[Dr.名無しさん:] ***製薬は、この四月から「**グリン」と言う抗癌剤を、新薬として販売してい ますが、臨床現場では何例かの事故が発生しています。 酷いことに死者も出ています。 その臨床データは公表される事無く隠蔽されたままになっています。 [通りすがりの男さん:] Dr.名無しさん、それって刑法に触れる犯罪じゃないの? いわゆる不作為犯ってやつじゃん? [Dr.名無しさん:] それに聞いた話なんですが、この薬品の開発にあたり、似た様な外国の薬品の治験デ ータを盗用したり、治験データそのものを改竄し開発を急ぎ、認可を受けたとの話も あります。早急この薬の販売を止めて欲しいと願っています。 [匿名希望さん:] そ・れ・は・犯罪・で・す! 疑いのない犯罪です! こんなとこで話してないで、事故の話と一緒に関係官庁に届けるべきです。 [Dr.名無しさん:] そうです、実におぞましい話です......。黙って従っている自分も犯罪者と言う気が して正直言って怖いです。 [通りすがりの男さん:] おいおい!それって間違いなくあんたも犯罪者じゃねぇの! 薬害って不作為犯って 面もあったけど、それよりヒデェじゃん。 [普通のおばさん:] それ、被害が拡大しないうちに公表して欲しいです。Dr.名無しさん頑張って! [Dr.名無しさん:] なんか、初めての経験で、わけがわからなくて、ここにきました。 どうしてよいのか、正直わかりません。 [通りすがりの男さん:] 普通誰も、そんな経験しねぇって! 早くゲロった方があんたのタメだと思うぜ
|
|