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作品名:マンガ喫茶だより ペンテコステ編 作者:樸 念仁

第9回   啓一の近況


現在、週休三日である。日曜水曜金曜と飛び飛びにオフになる。

仕事はというと、教会の手伝いだ。それで家賃をタダにしてもらう。その上に食費の七八割がまかなえる程の物を支給される。

焚き出しをする準備をしたり、箱おじさん達に就職を斡旋する事務をとったり、二人ともギターが弾けるものだから牧師のお供をして病院や施設を訪問しながらカーペンターズの歌を歌い、福音書に取材した紙芝居を見せ、世界名作全集から『ウェルテル』だとか『アン』だとかを読んで聞かせたり、そんなことをしている。シカゴ在住の元教会員が送ってきた、プリンスエドワード島を旅した折に写したという動画は、アンを愛するおばちゃん達にすこぶる評判が良い。

紙芝居をやるのに聖書を知らないのも何だから、水曜の午後にはバスで二十五分のマクドナルドへ行く。すると若菜がやってくる。それから二時間ばかり、聖書を読んで話をするのである。これを聖書研究と言っている。本文を読んで、思ったこと感じたことを話し合う。啓一は突飛な解釈をして人を笑わせることがあるが、そういう時は正しい読み方を教えてくれる。

若菜も水曜がオフである。聖書研究が終われば近くの公園に行って池のめぐりを歩くか、ベンチに掛けて白鳥を見るかして、腹がすいたら蕎麦屋でもファミリー屋でもいいから晩の食事をしに入る。啓一は聖書研究よりも後の方をメインに考えている。

礼拝式にはあれからまた一度出席した。奇跡らしいことは何も起こらない。

若菜がいうのに、それは決して稀な現象でない。盲人の目が見え、癌患者が治り、松葉杖で参会した者は杖を捨てて帰る、といった話はざらにある。尚、逾越の會では、未だその種の劇的な奇跡を経験しない。天佑によらなければ長らえられないような会員がいないのだ。以前、九十歳に近い女性信者が癌にかかった事があったけれども、その御婦人は年齢が年齢ゆえ、生物学的な観点から亡くなられたのは仕方がない。


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