若菜の男嫌いは転校直後から始まった話なので、Aを恋人に持ったことと直接的な関係はない。
ミッションスクールでは同性の、どちらかというと良家の子とばかり机を並べて勉強してきた。それがいきなり男も女もなく、玉と言わず石と言わずまぜこぜにされる。
制服さえない。何よりも迷惑したのはしかし、生徒間のいちゃつきが極めてオープンに行われるという、この一事だった。
若菜にすれば又ノイローゼになってもよい場合である。前に患っておいたのが多少免疫になったのでもあろうか。
で、本能的に用いた予防法が、異性に対する無関心だったのである。男嫌いになることだったのである。
我々は、そういう彼女が、Aとらぶらぶ関係になったところを見ている。だから、左様な男嫌いがにせものであることを知っている。
察すれば、無関心を決め込むことで、自己のプライドを保護する緩衝装置としたのに違いない。へええ、you程度の子でもカレシが欲しいわけ?言われた時の事を想像するだけで、乙女心はおののいたろう。そのくらいならいっそ女の子でなくなりたかったろう。
いうように、男嫌いは転校した直後から、つまり、七年生に編入されるなり早々と取った態度だった。クラスには随分良い仲になっているペアが数組出来上がっており、見ると、みんなまだそんな小便臭いふうのくせにして、登下校するのに手をつないで出入している。
いや、みんながみんなそんな不良だという意味ではない。だったら大変だ。けれども、少数とは言いながら、公園のベンチで、駅のホームで、電車の中でと、抱擁の接吻のアイラヴyouのと、始末におえないのがいる、これもまた事実だ。くどいようだが、七年生である。中学一年生である。
若菜にしても内心そういうことに全然興味がないではなかった。ただ、「Youは誰かが好きじゃないの?」と聞きでもしようものなら、決まって「うちは別に?」と、例のつれなげな返事をするだけなのだった。
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