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作品名:マンガ喫茶だより ペンテコステ編 作者:樸 念仁

第7回   アメリカンスクールのはなし


公用語はまあ英語だろう。建前上、学校では英語を使う約束なので。

が、友達同士でおしゃべりする場合、イングリッシュしかできない者は仲間に入れてもらえない。私用語にはニホンゴが用いられるのである。奇妙な言い方がまじるニホンゴではあるが。

ミーは猫なんだあ。まだハヴンガラネイムだけどねえ。んで、ユーは誰?

の如きである。

米国生まれのイギリス人少女であるマギーが、ジークの隠れマッチョをほめ、エルマーのマッチョマッチョをけなしながら、わりと格に合った女学生言葉で弁じえたのは、九歳より東京で暮らしてきたせいだったろう。

そのせいでまた、若菜とも仲良しになれたのである。

若菜はアメリカンスクールに転校したくせに英語をしゃべりたがらず、と言って、へんてこな国語は聞くのも嫌だった。自然、標準語を話す子を話のともに選ぶようになった。大多数がバイリンガルだけれども、マギーくらいのはそう多くないのだった。

ではなぜ若菜は英語を使いたがらなかったのか。次にそれが問われなければならないだろう。

日本語と違って英語は、少年が話すのと少女が話すのとでは違いがある。発音面は殊にその差が顕著で、例えば、踊る意味のdanceという語であるが、我々が中学校で教わった時、実はあれは男の子言葉だったのである。つまり、ダーンスと、男の子が発音する発音法でもって覚えたので、これが女の子だと、普通そうは言わない。もっと可愛らしく、デアーンスと言うのである。aの字をエアーと、二重母音に発音する。

若菜はみんなの可愛こぶりを苦々しい気持ちで眺めていた。決してデアーンスなど言うまい。そういう言葉づかいは自分に向かない。年がら年中異性のことばかり考えている、恋がしたい恋がしたいと念じている子らの言葉づかいなのだ。自分は彼女らと同列に見られたくない。それは死ぬよりも辛いことだ、と。

それゆえ日本語にしても、若菜のは年恰好に似合わぬ中性的な言語だった。


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