若菜はアメリカンスクールの高校生だった頃、同年くらいの女の子なら皆そうであるように、何かというと男子生徒の噂をして下らなく時間をすごしたものだったが、大抵聞き役にまわっていた。
「今年卒業組のジークっていけてるよねえ。うちはジークひとすじ。さらさらヘアが超さわやかなのにさあ、ああ見えて本当はマッチョなんだよお?この前こっそり見ちゃった。えへッ。バスケの練習のあと着替えてるとこ。もう、めっちゃ、腹筋なんかこんな。くっきり上下左右に溝が走っててさあ。服を着てると全然そんな感じじゃないじゃーん。うち、ああいう隠れマッチョって大好き!」
「ふーん?じゃ、エルマーは?」と若菜が言う。
「嫌い!ああいうマッチョマッチョしたのってきもい。いかにも鍛えてまあーすって。勝手に鍛えてれば?みたいな。なにげにマッチョだからかっこいんじゃーん。ま、ボディービルダータイプが好きだって子もいるけどね。うちは無理。ワンダなんかそうじゃない?あの子、筋肉むきむきの人、かっこいいって言ってたもん。絶対ワンダはエルマーのこと好きだよ」
「そうかもね」
「ユーは?ねえ若菜、ユーは誰が好き?」と聞くマギー。
「うちは別に?」
「好きな人いないの?」
「いないよ」
「どうして?じゃ、誰がかっこいいと思う?」
「どうかな。誰がかっこいいかって言われても。カーネルあたりかな」
「カーネルって?どの組だっけ」
「チキン組」
「ふざけないでよお!うちはまじで話をしてんのにい!」
「だって、うちは弱い人の方がいいかなあって」
「どうしてよ」
「手なずけやすいじゃん。お金を巻き上げるのに都合が良くない?」
「何それ」
「おどかせば何だって買ってくれるし」
「ねえ、うち本当に若菜のことが分からなあい」と誰も匙を投げてしまうのである。
事実を、若菜は隠していた。二十三年前に病死したハリウッドスターと付き合ってるんだあ、と言ったところで、友達は分かってくれそうになかった。
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