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作品名:マンガ喫茶だより ペンテコステ編 作者:樸 念仁

第4回   さらばE&M


202号室にはテレビもパソコンもない。

『この世に效ふな』と能筆に書いて額縁に入れられた書が壁に掲げてある。使徒パウロの言葉だ。

使徒というと、誰でも十二使徒を考える。有名なレオナルドの最後の晩餐、あれが思い浮かぶ。ペテロ。ヨハネ。マタイ。ぐらいなら啓一にも言える。十二人中、一番知られているのはユダだろうか、皮肉なことに。

ところで、世にならうなと出世間を勧めたパウロは、最後の晩餐には欠席していた。なぜなら、まだ使徒になっていなかったから。

? ・ ・ ・ どういうこと?啓一でなくても首をかしげそうだ。

若菜は次のように言う。

多くの人に誤解がある。使徒と聞けば十二使徒のことだと思いがちだけれども、そうではないのである。初めこそ十二人だった。しかし後から使徒になった者もいて、例えばユダが自殺後、代わりを決める補欠選挙まで行われている。

パウロはキリストの死後に使徒となった。なる前は信者を目の敵にしていじめていた。あの晩餐には招待されなかったし、それどころかキリストの顔さえ知らない使徒だったのである。

今日でも使徒はいる。大勢いるはずだ。恐らく百や二百ではきかないのではあるまいか。 ・ ・ ・

例によって、真否のほどは問いようがない。でも、嘘を教えるわけがないので、啓一はそのまま信じるのである。

とにかく、202号室にテレビもパソコンも置いてないのは、それらが世に慣れる為には持って来いの機器だからであろう。

文句があるのではない。そもそもテレビはあまり見ない方だったし、パソコンはというと、たまに良くないサイトを調べる程度だった。

ちょっぴり不便に感じるのは、原稿が書きあがると一々入稿しに喫茶店へ出張だ。彼は家と職を失って以来、小説家になっている。

土曜の晩にミスターEとミスMの番組が見られない。

もっとも、あんなものを見ないで下さい、私のためだと思って、と若菜にそう言われたので、あんなものを見る気をなくしてしまった。


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