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作品名:マンガ喫茶だより ペンテコステ編 作者:樸 念仁

第3回   転校理由


ウッスィイ。

ウシ子。

ギュウ子。

そうした名で呼ぶものだから学校へ行かれなくなったのである。

今かえりみる時、原因は他にもあったかも知れない。だけれども、不登校という事態の中にあったのではあり、そこまで客観視する能力が持てなかった為(或いは、客観視するに忍びないものがあった為)ストレスから神経症になったのだと診断されると、両親にしろ又当人の若菜にしろ他愛なく納得してしまった。ミッションスクールで中等部へ上がった頃だ。

咳いったら最後、何をしても収まらない。熱が出る。七度五分まで上がることがある。風邪でないのは確かだ。平日の朝に限って風邪をひいている者はない。といって一週間も二週間もそんなのが続けば、母親は心配でたまらない。病院は嫌だと駄々をこねる娘を引っ張っていった。

内科にかかっていたが、三日目から精神科へ回された。後日一人呼び出されて、お嬢さんは神経症です、あのお年頃ではよくありましてね、まあ学校ノイローゼと考えて下すって結構ですと言われたので、ひとまず安心した形だった。

何事によらずぎすぎすした今の世の中となっては、そんなことが知れた日にはたちまち職を追われかねない失敗だけれども、当時は幾分大らかな風が残っていた。それというのが、「ちょいとウッスィイ」だとか「あのさあウシ子」だとか「ねえギュウ子」だとか、みんなにそう言われながら、不快がりでもすることか却って「モオオ」と応答し、周囲の者を笑わせるだけおどけた一面を持つ若菜に、数学の先生もつい調子に乗って「割れません!もおお、いい加減覚えなさいましよ。ゼロだってゼロで割ってはいけないのです。よろしゅうございますか、ウシ子さん」と愉快な教え方をしたからとて、何もそう眉を顰めたものではないだろう。

そういう名物教師は滅多にいない。先生方には普通「ウシオさん」「ウシオ若菜さん」と正式名で呼ばれた。その場合でもクスクス笑う子がクラスにはいた。


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