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作品名:マンガ喫茶だより ペンテコステ編 作者:樸 念仁

第1回   (前話につづく)


だからカルト教団であって欲しくはないのだけれども、門外漢の啓一にはそうでない確証がない。

何しろ聖書の記述を一から十まで字義通りに解釈する。神話や伝説なのではない。アダムとエバの話が実話ならば、ノアの箱船だって史実だ。キリストは水を葡萄酒に変え、五個のパンと二匹の魚でもって群集五千人の腹を満たした、これみな事実報道である。

そうまで妄信するものなのか。クリスチャンとはそんな狂信者をいうのか。しかもカイに集う六十余名の人々が揃いも揃って同じように信じているのだ。

三位一体といえばキリスト教の教理の中でも広く知られている。しかしそれすら聖書に根拠がないとして退ける。父なる神、子なる神、聖霊なる神は、信者ならずと常識と心得ていたら、「子なる神」と「聖霊なる神」なる者は、実は誰かが後になって付けたした神の名で、聖書中には見えない教えなのだという。

ひとつ助かったことにカイの信者は押売りをしない。道を伝えはしても、他人を論破してまで己の正しさを証明する気はないようだ。

容れるも拒むも岩村さんの勝手、すべては岩村さんの心次第です。という態度で接してくれる。信ぜずんば地獄の沙汰あるのみ!とは言わないのである。啓一は学生時代、そういう闘士型の宗教者と議論を戦わした経験があって、だから宗教というと危険思想の同義語に近かった。そういえばあの連中も何か教祖の言葉を妄信していたっけが、若菜やカイの人々(それから啓一が好きなE原とM輪)のごときハト派にとっては、一緒くたにされては迷惑な相手であるに違いない。

絶対に受けとらないのが金品だ。正直、これには一番安心した。

カルトというのは大概が集金マシーンと聞いている。スギコシのカイでは、神に物を捧げるのは信者のすることだから、洗礼を受けない者はしたくてもできない。さあ皆さん神様に献金しましょうねと、礼拝式中に賛美歌を歌いながら集金籠を巡回させるようなことは、しない。


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