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作品名:マンガ喫茶だより アマポラ編 作者:樸 念仁

第5回   彼女はペンテコステ派


若菜の口利きで啓一が杉並のハイツ・イーグルへ入るようになったのは、あの6月22日の日だった。

朝、下北沢で会い、一旦別れて板橋の父親を訪ねた後、夕方再び電話で連絡をとった。四十分後の17:15にJR中央線、西荻窪の駅で待ち合わせた。

若菜は熱烈な信者だ。その日は日曜日で、啓一が電話した時、教会のある杉並から世田谷へ帰宅中だった。が、話を聞き、父親に助けてもらえそうもないと知ると、教会の二階に寄宿させようと思い立った。建物の一階が教会、二階がハイツ・イーグルになっている。

もっと正確には、以前はハイツ・イーグルというアパートだった建物を、宗教法人「逾越の會」が買い取って、一階部分を会所にあて、二階部屋はそのまま来客用に残してある。難しい字だが「スギコシのカイ」と読む。

キリスト教は三つの宗派に大別される。ひとつがギリシャ正教。ひとつがローマ・カトリック。いまひとつがプロテスタントだ。逾越の會はプロテスタントの中でもペンテコステ派と呼ばれる一派に属するのだという。

この派の特徴をひとことで言うなら、原始教会にかえれ、というものらしい。二千年前に始まったキリスト信仰を、本来の形で実践しようとするのが、ペンテコステ派の人々というわけである。

「原始教会に復る」が具体的に何を意味するのかといえば、まずは不思議と奇跡だろう。

神は拝み物ではない。活性を失ったホトケサマの一人なのではない。生きる全能者だ。

だから、神変を伴わないような学者めかした説教は、毒にも薬にもならない泡沫学問であり、宗教めいている。神の偉力は理屈や宗教ごっこではないのである。

そこへ行くとペンテコステ派が必要とする学問は簡単なものだ。聖書を一冊読めば、それが知るべきことの全てである。アウグスチヌスが何を曰った、ルターがいかに語ったなぞは神学でしかない。

そんなことより、病気平癒と悪霊調伏が、信者不信者をとわず、うんと切実な問題なのだ。


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