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作品名:マンガ喫茶だより、第2セマーナ。 作者:樸 念仁

最終回   おどろくばかりの
 藪から棒。
 そのように形容するほかはない。
 晴天のヘキレキとは言わない。否定的な意味合いを捨象した、ピュアーな驚き。予想だにしなかった、というので藪から棒。
 会ったこともない人に(でもどこかで会った感じの人に)簡易宿に訪ねられ、お食事でもしませんかと逆ナンパされ(ギャクナンて言い方があったかしらん)、食事はやがて話し合いになって店が閉まるまで七時間以上に及び、一番電車で帰ると言うのだけれど二時間ほど時間があったから駅まで送って行き近くの24時間営業の店に入ってお茶を飲みながらまた話した。
 清楚なレディーが臭がり汚がる素振りも見せない。おじさんは感激した。顰蹙されることなしに清楚な人を相手にしたのは久しぶりだった。
 別れ際、朝食にでも召し上がってください、コンビニで電子レンジを借りられると思いますからと、出てくる前に作ってきたというミネストローネの入った容器を手提げ袋ごと渡され、あとで見ると、袋の中には封筒。出てきたのはお金。短い手紙。曰く、泥棒の私がこんな意見を述べる資格はありませんが、足を洗った人として言わせて下さい。他人の自転車を無断で「拾う」のはやはり良くありません。これで新車を買って下さい。もし余ったら、たまには足腰が伸ばせる所に泊まって下さい。お願いですからお酒は飲まないで下さいね。お大事に。と。
 ズイキの涙こそこぼさね、菩薩か天人かと、嘘でなくそう思った、・・・そう思いたかった。
 守護霊というものがいるのなら守護天女がいたっていい。
 あの人は樸の守護天女だろうか。
 どう見ても生身の女性だ。それは間違いない。樸に会いに天上の世界からおりてきたとは考えにくい。
 しかし、まさにどこかで会った感じ。初めて会った感じがしない人。
 ひょっとすると、いやまさか、でも本当にひょっとしてひょっとしたら、あるいは生身の女性ながら樸の守護天女たるの命を受けた人なのであろうかと、そんな思いが生じるのを禁じえないのは、樸の救いがたく助平なところだ。
 だから、樸は超自然界の実在を疑っているわけではない。
 霊の存在はあえて言うをまたない。自明のことだから。
 この頃テレビを見る時間がないのだけれどもオーラの泉だけは見るようにしている。
 霊が存在しないと言う人はよっぽどどうかしていると思っている樸なのだ。これだけの証拠とこれだけの証人が揃っているのに、なお否定したがる人がいるけれど、裁判官ならまず落第だろう。でも科学者と言われる連中には金槌頭が少なからずいる。何でも自分たちのやり方でもって説明することができなければ嘘だ迷信だと、まるでダダッコみたいなことを言う。
 難しい物理理論が分かったから霊がいないと分かったという考えに、樸は賛成しかねる。難しい物理理論が分からないから霊を見るのだという考えにも反対だ。
 とはいえ、霊的真理がヒトツしかないとなると、どう受けとめたら良いだろう。
 前世も守護霊も嘘迷信、ミスターEとミスMは偽預言者、なのだろうか。
 春花さんの言わんとすることは、頭の悪い樸にも理解できる。
 親切にしてもらったせめてものしるしに、同じ意見ですと言いたいところだ。
 おじさんも迷っている。困っている。
 けれども、おじさんは感激している。深く深く感謝している。いま神様に、それから春花さんに通じてほしいのは、何よりもこの気もちなのだ。


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