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作品名:マンガ喫茶だより、第2セマーナ。 作者:樸 念仁

第3回   痛いのなんの
 いやはや参りました参りました。
 痛いものですな。歯を抜きましてね?
 日曜日に歯痛が始まって、すぐにも抜こうと思ったのですが、昔コグレ歯科という歯医者さんへかかった時に受けたアドバイスのことを思い出して、しばらく従ってみたわけです。
 コグレ歯科のワカ先生いわく、悪い歯は悪いなりに使用できないものでもないから、少しぐらい痛くても我慢して使い続けてみてはどうか。バッシは最後手段である。二度と生えては来ないだろう。いよいよ我慢できなくなったら抜いてあげる。またいらっしゃい、と。
 良心的な歯医者さんだなと思ったことでした。
 オオ先生とワカ先生が代わり番こで診療に当たっているようでした。樸はオオ先生に診てもらったことはないのですけれど。
 非常に評判の良い歯医者さんだそうで、前にかかったことのある人は、いつまでも顔と名前を覚えていてくれるといいます。そういうところですから、イチゲンさんはおことわり、紹介がないと診てもらえません。樸も飲み屋で知り合ったオバチャンを通して、晴れて患者様になれたというふうに記憶します。
 で、今度も我慢してみました。何といっても痛み止めの薬まで買ったので、あまり早くに最後手段を使うのは、二重の意味でもったいない。
 一日がゲンカイでした。
 きのう月曜日は、食べ物を噛むことすらできないで、口に入れるのはポタージュ風ドリンクとお茶だけ。
 今朝十時に近所の歯医者さんへ駆け込みました。
 そこは予約も何もいらないところです。だからといってヤブではなく、ケッコウ良い歯医者さんです。説明なんかも丁寧で。
 聞いてみると、歯は根元から折れていて、やっぱり抜くしかない。

「これは痛かったでしょう」

 と同情の言葉をかけてもらいました。
 抜いた直後はまだ良かったのですが、麻酔が切れてくるにつけ、大変痛みを感じます。
 顔全体が熱をもったようで、おまけに陽気のせいで尚更かっかするのです。
 とても日にあたっていられません。動く気になれません。
 そうかと言って寝ている所もない。
 しようがないからマックに入って、コーヒーのプレミアムローストというのを注文して、苦痛をこらえながら山なみは見えず、雨空。の書き出しを考えました。
 入ったマックもなかなか良いマックでした。ホットコーヒーはお替わり自由とデカデカと宣伝してあります。だから105円で九時間超も座っていました。
 考えてみると、ここの宿屋が九時間で1800円なのですが。
 マックは宿屋のすぐそばです。歩いて二分てとこでしょうか。大通りの同じ側にあります。
 これからちょいちょい行ってみようかと考えています。
 店長が親切な人で、樸のような荷物を背負った利用者に対しても迷惑な顔をせず、コーヒーのお替わりはいかがでしょうかと、わざわざ聞きにきてくれます。
 そんな次第で、痛みにかかわらず、樸は気分が良い。何か得をした気分で。
 ただし、書き出しはまだ決まりません。小説は書き出しがすべてです。書き出しのところで読み手のハートをぎゅっと握ってしまえば、あとは楽なはずです。木曾路はすべて山の中であるや、国境の長いトンネルを抜けると雪国であった、夜の底が白くなったを、例にひくまでもないでしょう。
 そこでまたひとつアイデアが浮かんだというのは、書き出しをそのままタイトルに使ったらどうだろう。山なみは見えず、雨空。というのも、下手をすると恋空のパクリと解釈されかねない。恋空のほかにも空もの小説は出ているようだし、いっそのこと



山なみは見えず、アマポラ。



 と南欧風の表題兼書き出しに変更してみようと思うのです。いかがでありましょうか、編集長殿。


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