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作品名:マンガ喫茶だより 作者:樸 念仁

第4回   樸はコタツムリになりたい
 ゆうべはチョウシこいて小説家きどりでヨフカシしちゃった。
 はりきって書いたら、なんだかノウミソがコウフンして、投稿したあともずっと寝つかれなかった。
 何のために高い金を払ってヤネを借りてるのか分かりゃしない。バカだね、本当に。
 おかげで一日をゾンビの如く暮らした。
 出しなに本棚を見たら今朝は恋空があった。
 人が見てる前でダイのオトナが読むには恥ずかしそうな本だけど、じゃ今日は球場のある大きな公園に行って恋空を読もうと日中の計画を立てて、ハイシャクして荷物の中に忍び込ませた。
 ロビーで支払いをしている時にアサッパラからバッドニュース。考えるととても憂鬱になる。
 ちかぢか料金がカイテイになるそうだ。
 何のカイテイだい!
 ポタージュ風ドリンクのシイレカカクがゲンユダカでコウトウしたか!
 悪質なビンジョウネアゲだな、これは、どう考えても。カタツムリ人間泣かせの。
 困ってしまいますよ、私のような者は。
 ヤスヲ君は何をしているのだ。
 みんながアンシンして暮らせる国造りに着手してもう何カ月だ?
 イタリア旅行をしてるヨユウはない。早くしてくんないとまずいのだよ、私は。屋根の下もそろそろボール紙の屋根になりそうですよ、このままいけば。すべて世の中のありにくく、わが身とスミカとのはかなくあだなるさま、かくのごとくかくのごとし。
 むかしアンショウさせられたっけ。いまごろ役にたつとは思わなかった。

                  箱おじさん

 なんかどうだろう。いや、樸のベストセラー小説に附するタイトルのことですがね?
 箱おじさんじゃホームレス中学生よりもっとパクリか。
 何かないかな。

               まいまいつぶろおじさん

 ゴロが悪いな。
 社宅アパートに入ってたころ、布団もストーブもなくってコタツの中で生活していたことがあったけれど、店の女の子が訪ねてきて、

「アラキさんてコタツムリだね」なんてって笑ってたな。人の気も知らないで。

 まあいいや。タイトルはまた明日考えよう。
 ハイシャクはしたけど、アタマが疲れていて結局恋空は開いてもみなかった。読書の気分になれなかった。
 だから午前中は球場のある大きな公園のベンチにかけて丹沢の山々を眺めてぼーっとした。
 すぐ下はJR相模線の線路だ。サラリーマンやらOLやらショシコウセイやらを乗せて電車が通る。
 公園はハナミの名所らしい。桜のタイボクがたくさんある。
 99で買ったマヨネーズ入りの鱒寿司を食べて朝食兼昼食。
 公園も飽きたから午後から移動。それに、公園は子供を遊ばせるお母さん連が何組も。子供を遊ばせているのに、ブショウヒゲを生やしたまいまいつぶろおじさんにゾンビのまなざしを向けられるのもキミのいいものじゃないだろう。最近はいろんなジケンがあるから。
 市役所のあるメインストリートを国道16号の方へと歩いた。
 メインストリートも両側が桜になっている。一キロほど、桜の並木がずうっと続いている。花見時のこの町はオオニギワイなんだろうな。
 歩いてくと左にデニーズがある。デニーズなんて半年も入ってない。もっとかな。
 若かった時分はよくデニーズブレックファーストというのを食べたけれど、まだやってるのかな、デニーズブレックファースト。
 99の鱒寿司一個じゃアシに力が入らない。ちょっと歩いただけでくたびれる。背負い物だってしている。
 デニーズはマダムたちでいっぱい。もうちょっと行ったところにベンチがあったから、かけてうなだれていたら、

「コレ、飲ミマスカ」

 外国のおじさんに話しかけられた。
 考えてみると、誰かに話しかけられるのは久しぶり。カワイイ系のちゃぱつギャルにたたきおこされたりするのをのぞけば。
 外国のおじさんはカンコーヒーを二本もっている。見たとこ五十四五かな。もっと行ってるかな。服装はこっちとあまり変わらないヒンソウな感じ。ガイジンにしては珍しい。

「ドウゾ。取ッテクダサイ」

 さしだしながら、となりに腰をおろす。

「ドウゾ。アナタニ上ゲマス」
「はあ。じゃ、遠慮なく」
「今日ハ、雨、降リマセンカ?」
「さあ、降らないんじゃないすか」
「良カッタデスネ」
「そうね」
「アナタ、今、何ヲシテイマスカ?」
「とくに何も」
「何デスカ?」
「考えごと」
「ソウデスカ。ワタシ、エイゴヲ教エマス。エイゴ、勉強シマセンカ?」
「いいよ、アメリカに行く予定はないから」
「モウ一度、言ッテクダサイ」
「アメリカはきらいだから英語は勉強しない」
「ドウシテ、アメリカガキライデスカ」
「すぐ戦争するからだよ。世の中が思いどおりにならないと戦争して思いどおりにする。世界で一番悪い国だ。アメリカぐらい邪悪な国はない。北朝鮮なんか比じゃないよ。それが分かってないのはアメリカ人だけだ。ひょっとしてあなたアメリカ人?」
「イイエ、チガイマス。ワタシハカナダ人」
「そうか、それはよかった」
「ワタシノ妻ハ、アメリカジン」
「まあそれはいいんだけどね。俺はアメリカはきらいだけどアメリカ人はきらいじゃない」
「ソレハ良イコト。エイゴハ、キライデスカ?」
「英語はきらいだね」
「ナゼキライ」
「なに、そんなに英語を教えたいの?あんたんとこはただで教えるの?ただで教えるんなら教わりに行くよ」
「モチロン、タダ」
「本当にただなの?」
「タダタダ。今日、コレカラfree lesson。六人来マス。アナタモ一緒ニ。ドウデスカ?」
「いや、冗談だよ。ただだって何だって英語はいいよ。学校でさんざんやらされたんだから。使ったためしがない」
「ソウデスカ。ソレハ残念。明日モ、ココニ来マスカ?」
「誰。俺が明日ここに来るかって?」
「アナタ。明日、ココニ来マスカ?」
「来たそうに見える?」
「来テクダサイ。明日、マタ、話シマショウ」
「俺と話がしたいわけ?」
「アナタト話シタイ。ワタシ、コレカラ行ッテ、教エナケレバナラナイ。明日、同ジ時間、来テクダサイ」
「気が向いたら来るよ」

 五分ばかりムダバナシしてカナダ人のおじさんは近くのビルの中に消えていった。
 何だろうね、いったい。コーヒーをくれたからいいけど。
 どうせくれるんならコーヒーよりビールがよかったんだけどな。帰ったらコーヒーなんかいくらだって飲めるんだから。ゼイタクを言っちゃいけないか。
 ビール飲んでないなあ。ビールが飲みたい。恋がしたい。空までのぼる恋がしたいなあ。
 ムリか。
 デッカイトンカツ、タベタイ。


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