「おはよう、真那」 「おはよう」 教室に入ってきた真那に、恵理香が後ろから勢いよく抱きついて話し掛ける。 「見た見た?!今日のニュース?!」 「見てないけど・・・?」 「また起きたんだって、猟奇殺人!」 「嬉しそうだね」 心からそう思った。こっちは猟奇殺人がまた起きたことに驚いているのに、恵理香は目をきらきら輝かせて報告してくる。 真那の言葉に、恵理香はさらに楽しそうに続ける。 「だって、今度の殺し方も、普通じゃ考ええられないんだって!人間じゃ不可能なくらい、って、これってミステリーな感じしない?!」 「しない」 あっさり切る真那に、えー、などと言いつつも、恵理香はその話題を止める。 そして新しく仕入れた都市伝説をまた楽しそうに話し始めた。 「あのね、この前サイトで見たんだけど、『人間の皮を被った物の復讐』っていうね・・・」 こちらのほうは面白そうだと思った真那は、今度は恵理香の話に耳を傾けた。 恵理香の語る都市伝説は笑えるものから、本当に怖いものまで様々で、ミステリー好きの彼女の探究心には呆れたり、感心してばかりだ。 そして今日も2人はいつも通りの日常を過ごした。
「ただいまー」 鍵を開け、真那は家の中に入りそう呟いた。 「おかえり」 聞こえてきた声に、真那はバッと顔を上げる。そこには見知らぬ人物が立っていた。 真那は思わず声を上げようと口を開いた。 「〜〜〜ッ!」 しかし真那が何か言う前に、家の中にいたその人物が真那の口を塞ぐ。 「あっ、ぶな〜・・・。俺の事覚えてない?カフェでじっと見てたじゃん」 一瞬何を言われたのか分からなかったが、その意味を理解し、警戒しつつも記憶を探った。自分が行くカフェは『ル・シエル』しかない。そこであった人物。 ふとある人物が思い当たり、目の前にいる人物を見上げる。 「!」 「あ、思い出した?」 目を見開いて驚く真那を見て、その人物は笑ってそう言うと、真那の口を押さえていた手を離す。 驚いて真那は声が出なかった。鮮やかな赤い髪、猫のような黄色い目、褐色の肌、その人物は、先週『ル・シエル』で見かけた青年だったのだ。 「ぁ、・・・え?」 何か言おうとしても言葉に出来ず、何をされるか分からない恐怖でドアに背中をピタリとつけ、ギリギリまで逃げようとする。 そんな真那を見て、青年は申し訳なさそうに言う。 「ごめんな。勝手に家入って。でも、俺の見た目上、家の前で待つほうが問題があると思ったから、入らせてもらったんだ」 真那が驚いている理由を、勘違いしているのか、はぐらかしているのか、まったくその表情からは分からない。 しかし、真那は律儀にも訂正を入れる。 「そうじゃなくて、何で家の中に入れたの?」 「あ、そっち?」 ようやく自分が勘違いしていることを知った青年は、ニコニコと笑いながら再び家の中に向かう。 「まぁ、とりあえず入って落ち着こ」 チョイチョイと手招きされて、真那は自分の家なのにと思いながらもリビングへと向かった。
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