ただちに現場に急行した近藤と山下は、1人目の被害者の現場のような悲惨さに顔をしかめる。 今度は住宅街には近くないものの、それでも人々が利用する公共施設の裏での事件だ。やはり犯人は異常者だろう。 今回も広範囲にわたり死体がバラバラになっている。 「近藤ちゃん!山下君!」 喜々とした顔つきの神崎が2人に近付いてきた。その顔を見ただけで、2人は死体の悲惨さを想像できた。 「神崎、死体の状況を簡潔に述べてくれ」 「あらぁ、その口ぶり。さては、見るつもりないでしょ。だから聞こうとしてるのね?」 こういう事だけは勘が働く。変に隠しても余計からかわれるだけなので、近藤も山下も素直に頷いた。 「もう、しょうがないわね〜。じゃあ、説明してあげる」 それまではニコニコと話していた神崎だが、急に真面目な顔になった。神崎はふとした瞬間に、常からは想像も出来ないくらい真面目になる時がある。本人の中ではスイッチがあるようだが、この豹変ぶりについていけるようになったのは最近だ。 「今回も前回と同様、体中のパーツというパーツが信じられない方法でバラバラされていたの。でも、今回は前回と少し違って、バラバラにされた方法は、恐ろしくよく切れる鋭利な刃物でスパッと切られたと思っていいわ。全部切り口の断面図がよく分かる綺麗さだったわ。それと、今回の事件の悲惨な所は、中身がないの」 「中身?」 神崎の言葉に、思わず近藤はオウム返しをした。 近藤の疑問に、神崎は頷きながら続ける。 「そう、中身。骨も肉も、内臓器官も、全てごっそり抉り取られてたの」 「えぐりとる、ってどうやって?」 山下が恐る恐る尋ねる。 神崎は少し考えてから、こう説明する。 「アイスクリームをお店の人がすくってくれるでしょ、丸いスプーンで。あんな感じに皮にそって抉り取られてるの」 聞かなければよかった。2人は即座にそう思った。これで今日も夕飯は食べられそうにない。 死体を見れば、確かに少し薄いような気がする。 「これ、その・・・中身は?」 ふさわしい言葉が見つからず、近藤も中身と繰り返す。 「それが、抉り取られてる部分は見つかってないの。骨はあるんだけど、肉とか内臓とか、そういったものはないわね」 異常よね〜、などと神崎は言うが、2人にはそもそもこの犯行自体が異常だらけだ。 「これも、モンタージュは無理ですね・・・」 山下の言葉に、近藤は力なく頷き、これから始まる嫌というほどの書類とのにらみ合いを思い、自然と頭が痛くなる。 しかし、神崎の言葉を聞いた瞬間、2人は一瞬にして頭が冴えた。 「でも、今回の子は身分証明持ってるし、前の事件の子と親しい間柄みたいだから、それだけは救いよね〜」 近藤と山下は同時に叫んだ。 『何っ?!』
次の日、捜査会議が再び開かれていた。 「猟奇殺人の被害者が判明したんだって?」 「はい」 広い会議室、マイクによって隅々まで行き渡る声に、山下の声が答える。 山下が立ち上がると、会議室の前にある巨大スクリーンに2人の男女の写真が写った。 男は金髪に青白い肌、メイクがしっかりとされており、ビジュアル系だ。女の方は派手なメイクと髪が印象的で、この女が夜の商売をしていると語っている。 「男の方は田口正博。ビジュアル系バンドのヴォーカルで、バンドでの名前はミカエル。女は石島真理子。キャバ嬢で、源氏名はユカリ。田口の今一番親しい女性です」 「どうして2人の身元が分かった?」 「石島の方は、現場にあったバッグの中から定期が見つかりました。田口の方はこれです」 山下は資料をめくるよう伝え、スクリーンを操作する。 すると今度はスクリーンに、バラバラの体をパズルみたいに繋げた写真が2枚と、その2枚の写真に浮かび上がる模様を別に映像化した物が写っていた。 「これが2人の被害者に共通したタトゥです。これは田口のバンドのシンボルマークで、田口は背中にいれていますが、石島は右太ももの内側にいれてありました。ここから2人が知り合いだという事が判明しました」 「よく気付いたな」 心からそう感じているのだろう。周りの者も、その言葉に同意して頷く。 「解剖医の神崎先生が、初見で気付かれました」 山下の声には呆れた雰囲気が漂っていたが、それを不思議に思う者はいなかった。神崎の変人ぶりは、署内に響き渡っている。 だが腕の優秀さも同様に署内には響き渡っている。神崎はいろんな意味で凄い人物なのだ。 「それで、犯人の心当たりはついたのか?」 「いえ、それはこれからです」 その答えに、残念そうな嘆息が何人からか漏れる。 むしろあのバラバラな遺体から、身元を調べ上げたのだ。そこを評価したらどうなんだ、そう近藤は心の中で毒づく。 「では、引き続き殺害の状況と、犯人を調べてくれ」 「はい!」 会議室に、一糸乱れぬ声が響いた。
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