多少個性的な服装をしている人がいても、この街では珍しくないので驚かない自信があったが、入ってきた人物には驚いた。 赤い髪は天然のものかと思われるくらい鮮やかで、褐色の肌が白で統一された店内に目立つ。そして、何より目が嫌でも人目を引いた。黄色のコンタクトレンズだろうが、猫の目のように瞳孔が縦に細い。 野生的。その言葉がもっともふさわしい外見の男だった。 「こちらにどうぞ〜」 最初は驚いた青木だが、すぐに気持ちを切り替えたらしく、にこにこと接客を始めた。 青木に案内されて、男は2人から離れたカウンターの席に座った。 他に店にいた客も何人か男を見ていが、気がつかないのか気にしないのか、男の動作に不自然な感じは受けなかった。 「メニューは?」 座ってすぐに男は青木を振り向いて聞いた。声は外見に合っていたが、威圧的な雰囲気はなかった。 「あ、すいません〜。これです」 聞かれて青木は思い出したように、カウンターの中からメニューを取り出し、男に渡した。 その様子に、マスターは呆れた様に口を開く。 「お前、まだ接客の一つもできねえのかよ?」 「すいません〜」 「かまわない」 マスターに謝る青木を庇うように、男は少し笑ってそう言い、メニューを開いた。 笑うと少し雰囲気がやわらかくなる。見れば人懐っこい顔をしているような気がする。 「?」 いつまでも見ていた真那の視線に気づいたのか、男は視線を上げて真那を見た。 驚いて目をそらした真那に、恵理香が不思議そうに声を掛ける。 「どうしたの?」 「なんでもない」 無理やりそう笑って言うと、目の端で男も視線をメニューに戻したのが見えた。 とりあえずほっとした真那に、恵理香はこそこそと話しかける。 「ねぇ、あの男の人、ちょっと格好良くない?」 「え?」 思いもかけない恵理香の言葉に、真那は声が裏返る。あの男の人、とは間違いなく今入ってきた野生的な男のことだろうが、恵理香がそう言った事に驚いた。その驚きを引きずったまま、真那は心から思ったことを口にした。 「青木さんと、同じ列には並ばないと思うけど?」 「青木さんとは別よ。別!」 力いっぱいそう力説する恵理香だが、別なのに格好良いと思えるその神経が不思議だ。 万年彼氏募集中、と自分で言い切る恵理香は、可愛い顔をしているのに押しの強さが恋愛に結びつかないとは気づいていない。 そして今回も、初対面の男にいきなり恋愛ゲージが上がるとは、真那は呆れたように口を開く。 「浮気はだめよ。浮気は」 「浮気じゃないわよ。私は青木さん一筋。ちょっと格好良い人にはときめくけどね」 「それ、浮気じゃん」 「何が浮気なの?」 2人のやり取りをしっかりと聞いていたマスターが口を挟む。 ニヤニヤ笑うその顔は、全部知っているぞ、と言っていた。事実、マスターは恵理香が青木に好意を持っている事を知っている。なぜ知っているのかと聞いたら、「年よりは勘が働くんだよ」と明るく言われてしまった。 そういった経緯で、マスターも真那と共に「恵理香の恋応援しようの会」の会員である。ちなみに会員は、その2人だけだ。 「浮気は止めとけよ〜」 「だから、違います!」 必死に弁明しようとする恵理香に、マスターはあっさりと冗談だと告げる。 もう少し遊べるのに、と思ったが真那もからかうのを止めた。 また2人で笑いながらケーキとお茶を頂き、次の行き先も決定し、2人は店を出ようと立ち上がった。 「お、行くか?」 「はい。ごちそうさまでした〜」 2人はそう言って、マスターに直接代金を渡し、ドアに向かった。 男の傍を通る時真那は一瞬緊張したが、男は2人が出て行くことに気付かなかったようだ。
「あ〜、くそっ!誰だよ、こいつは〜・・・!」 警察署内の廊下で近藤はそうため息を吐く。身分を証明するものどころか、ほとんど原形を留めていない被害者は、モンタージュを作ることすら不可能だった。 そのせいで、いまだに身分を解明する方法すら見つかっていない。 そんな近藤の元に、山下が息を切らせながら駆け寄ってきた。 「せ、先輩ッ、大、大変です!」 「落ち着け」 どもりすぎて何を言っているのか分からない。そう山下をたしなめる近藤だが、山下はさらに大きな声で反論する。 「そんな場合じゃないんですよ!」 「何だ?」 次の言葉を聞いた時、近藤はめまいがした。 「猟奇殺人で、2人目の被害者が出たんです!」
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