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作品名:九十九神 作者:華月

第24回   24
 ふぅ、と溜め息をついて大輝はベッドに座る。いつもならそこから話をしてくれるのだが、今日はあらぬ方を向いたままこちらを見ない。
 その行動を疑問に思い、真那は一瞬ためらったが口を開いた。
「何かあった?」
「え、何で?」
 真那が話し掛けた事で、大輝はようやくこちらを向いた。その目に動揺が映っていたのに真那は気付いた。
「いつもと違うから・・・」
 重い空気を感じながらも、真那はそう答えた。
 大輝は大きな溜め息をついてから立ち上がった。そして、ベッドの端にある机へと向かった。
 大輝の動きを目で追っていた真那に、大輝は一冊の雑誌を手渡した。それは、どこにでもあるような雑誌だった。あるページに付箋が付いていた。
「付箋のとこ、見てみて」
 大輝の言葉に頷き、真那は付箋の付いたページを開いた。
 そこにはゴシップまがいの記事に埋もれるように、ある一つの記事が載っていた。その記事の写真を見た真那は弾かれたように大輝を見た。
「!」
「やっぱり・・・」
 驚く真那とは対照的に、大輝は納得したような声でそう呟いた。
 真那が驚いた記事とは、ある倉庫が立ち並ぶ所有地にある小さな社が壊されていたという物だった。その社とは間違いなく真那を助けてくれたあの女性がいた社、写真を見ても、その現場は真那が化け物に遭遇した所に間違いなかった。
 驚く真那に、大輝はゆっくりと話し始めた。
「この間、コンビニでその記事を見たんだ。あの時は、真那が無事かどうかとあの化け物みたいなやつの事で頭がいっぱいだったけど、その記事見て、なんとなくここだった気がする、って思って。それに、タイミングも良すぎるし・・・」
「これ、何で・・・?」
 大輝と違ってたった今この記事を見た真那は、まだ何が起きているのか頭が理解していなかった。何故こんな事が。その考えが頭の中を駆け巡っていた。
 一方大輝も、記事を見つけたが何も分からなかった。驚いて目を見張る真那に、静かに言う。
「分からない。その記事も、誰もいない時に壊されたって事しか書いてないし、インターネットで調べてみたけど、そのことニュースにしてるやついなかった。そんな雑誌だから食いついたんだと思う」
 それだけ大輝が話すと、2人の間には沈黙が訪れた。だが、2人の頭の中ではずっと、何故、という問いがぐるぐると巡っていた。
「偶然じゃないよね・・・?」
「違うと思う」
 真那にも分かっている、偶然な筈がない。しかし、何故。
「遠遣に、聞いてみる」
「うん」
 遠遣なら知ってるはずだ。何故、あの社が壊されてしまったのかを。
 ひとまずやる事が分かったら頭がすっきりした。真那はヨッ、と立ち上がり、何もない空間に向かって声をかけてみる。
「遠遣〜?」
『何?』
「聞きたい事があるの。だから、今日はもう帰りたいんだけど・・・?」
『分かった』
 その返事に、真那はほっと胸をなでおろし、大輝の方へ顔を向ける。
「今度来た時に、遠遣に聞いた事言うね」
「あぁ。頼む」
「じゃ」
 それだけ言って、真那は目を閉じた。
 そしていつもの浮遊感が体を包んだ。

「?」
 いつまで経っても体に浮遊感を感じる。それに、何だか家とは空気が違う。
 真那は不思議に思い、そっと目を開いた。
「え?」
 そこは何もない暗闇だった。右も左も上も下も分からないような完璧な暗闇。最初の一言を発した後は、真那は驚いて声が出なかった。
 そして、次に感じたのは恐怖だった。自分の身に何が起こったのか、何も分からないまま、この暗闇に一人きりなのだ。
「・・・」
 口は何かを言おうと開いたり閉じたりを繰り返すのに、何の言葉も発しない。
 そしてとうとう真那は足が竦んでその場にしりもちをついた。
 その時、真那の後ろから声がした。
「どうされました?」


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