「先輩、どう思います?」 「俺は今の奴はシロだと思うぞ」 「そうじゃないですよ」 質問の意味を分かっていてはぐらかす近藤に、山下は疲れをにじませた声で反論する。 2人は取調べを追え、人もまばらな部屋で調書をまとめていた。取調べの結果は、事件とは無関係だったという、最近では書きなれた文章を調書に書き込む。 ここ最近は聞き込みと怪しい人間の取調べの繰り返しで、山下だけでなく近藤もうんざりしていた。何より、怪しい人間が見つかったと言われれば、休日を返上してこうして仕事をしているのに、まったく成果がなかったという事実にうんざりしているのだ。 「なんか・・・、このやり方では犯人が見つからない気がしてきました・・・」 「奇遇だな。俺もそう思っていたところだ」 「僕、早く解放されたいです。この調書地獄からも、事件からも・・・」 「早く彼女と遊びたいか?」 珍しく弱音を吐く山下に、近藤はからかい混じりにそう言ったが、背後で山下が机に突っ伏したのを感じ不思議に思い振り向いた。 「・・・ふられました」 「はっ?」 「『毎日毎日、事件事件って、休日だってろくに連絡も取れないし、これじゃ付き合ってるなんて言えない』って・・・」 言えば言うほど、山下の背中が小さくなっていく。近藤はかける言葉に一瞬詰まったが、こう切り出した。 「あー、・・・まぁ、何だ、その、・・・刑事になったからには、そういう事もある・・・。だから、お前が悪いんじゃ・・・」 「・・・裕子さんがいる先輩に言われても、なんか余計切なくなります」 その言葉に近藤はうっと詰まった。 山下が言う裕子というのは、近藤の同棲している女性の名前だ。大学時代からの付き合いらしく、近所からは夫婦だと思われている。彼女は近藤がどんなに忙しくても文句を絶対言わず、いつもニコニコと笑っているのだ。 山下ともすっかり顔なじみになり、たまに山下は近藤より先に近藤の家でご飯を食べている事さえあるほど仲が良い。 その彼女の事を言われては、近藤はもはや何も言えない。 「・・・先輩」 「何だ?」 「飲み、連れてって下さい。先輩のおごりで」 おごりの部分に近藤は一瞬ためらったが、珍しいほど落ち込み、珍しいわがままを言う山下に「5千円までな」と了承した。 近藤の了承を得て、山下はノロノロと上半身を起こし、再び調書に向かい始めた。その背中に、若者らしからぬ哀愁を感じたのは近藤だけだった。
「何じゃと?殺そうとした?」 「はい」 辺りには無限に広がる闇しか存在しない場所で、マントを身に付けた長身の男は目の前の人物に頭を下げる。 篝火に照られた御簾の内側にいる者は、男の言葉に声を荒げる。 「何故じゃ?!童は殺せなど言う命令はしておらぬ!生け捕りにしろと命令したはずじゃ!何をして・・・、いやそれより、無事じゃろうな、あの娘は?!」 「はい。あの土地の九十九神が娘を助けました。その後遠遣も現れ、あの娘は無事にございます」 男の言葉に御簾の内側の人物はようやく落ち着きを取り戻した。 「ならば今回の失態は許す。しかし次こそは生け捕りにするのじゃ。失敗は許さぬ」 「かしこまりました」 「それと、」 下がろうとした男に、御簾の内側にいる者は何の感情もこもらない声で言い切った。 「あの娘を助けた九十九神が、何か余計なことを言ったのなら殺せ」 その言葉に、男はくすりと笑って言った。 「もう殺しました」
「あれ?」 コンビニで週刊誌をパラパラと捲っていた大輝は、ある一つの記事を見つけてページを捲る手を止めた。 その記事は他のゴシップまがいの記事の中に埋もれるほど扱いが小さかったが、写真付で掲載されており、その写真を見て大輝は驚き、お茶とその週刊誌を買いコンビニを出た。 大輝が驚いた写真とは、倉庫が立ち並ぶ場所の中にある小さな社が無残に壊された写真だった。
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