2人がいなくなった場所に、一瞬で遠遣が現れた。 「どうだった?」 『九十九神です』 先程の女性が遠遣から少し離れた所に現れてそう答えた。 「真那をどうしようとしていたんだ?」 遠遣の声は真那と話す時に感じるような柔らかな声音ではなく、抑揚のない感情のこもっていない声だった。 一瞬言いよどんだ女性は、それでも事実をありのままに告げた。 『・・・殺そうとしていました』 その言葉を聞いた瞬間、遠遣は目の前にある化け物の残骸を踏みつけた。機械が潰れる鈍い音がその場に響いた。 遠遣の行動に、女性はビクッと身体を硬直させる。 顔を下に向けているせいで、遠遣の顔は分からないが、空気がピリピリしているように感じるほど恐ろしかった。 「真那を守ってくれてありがとう。心から感謝する。姫にも伝えておくよ」 声が微かに震えていた。遠遣の声に篭もるその怒りが、目の前にある機械に向かっていると感じた女性は、ゆっくりと頭を下げる。 少しだけ柔らかな声になった遠遣が、女性に顔を向けて言う。 「休みなさい。疲れただろう」 「お気遣いありがとうございます」 その言葉を残し、女性はふわりと空気に溶けるように消えた。 遠遣は目の前の機械を再び見下ろしながら、ギリッと唇を噛む。 「真那を殺そうとした?随分と質の悪いモノを造るじゃないか・・・、魔児」 その名を呟いた遠遣の脳裏には、自分とは対極の者の存在がよぎった。 この事態も、きっとどこかで見ている。自分達を嘲笑いながら、次の手を考えている。 「真那は殺させない。絶対に・・・!」 そう言った瞬間、機械を踏み潰していた足元から炎が噴き出し、機械と遠遣を包んだ。 次の瞬間、炎が消え、そこには何も残っていなかった。 遠くの方から、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
「真那、どうしたの?」 ぼんやりと考え事をしていた真那は、東原亜希の声にはっとした。 「あ、ごめん・・・」 「考え事?」 自分を心配そうに覗き込む亜希に、真那は笑って大丈夫と告げる。その言葉に、亜希は「そう」と言って、再び熱唱している恵理香の方を向いた。 今真那達がいるのは、カラオケの個室だ。 あの後、大輝の部屋に戻った真那は、遠遣によりすぐに戻された。 あれ以来、毎日ニュースをチェックしていたが、あの化け物のニュースは一度も流れなかった。あそこで何があったのかを知っているのは、魔那と大輝と遠遣だけなのだ。
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