真那はそう呟きながらも身支度を整え、玄関へと向かった。 「行ってき〜ます」 そう言うと、鍵を掛け駅に向かって歩き始めた。 駅に着くと、すでに親友の百瀬恵理香がいた。 「やっほ〜」 「ども〜。珍しく早いね」 「珍しくは余計。今日お兄ちゃんが出かけるって言うから、駅まで乗せてもらった」 「あ、それで〜」 納得、という顔をして、真那はバッグから定期を出す。 「じゃ、行こうか」 「うん」 今日は学校が休みなので、2人で遊ぶ約束をしていた。行き先はいつも駅3つ分先の市の中心街だ。 ビルにデパート、カラオケ店も充実している街は、休日ともなると人であふれる。しかしそこが2人は落ち着くのだ。 「今日どこ行く?」 電車に揺られながら、恵理香はそう聞いてきた。 一度う〜んとうなってから、真那はあっと提案する。 「『ル・シエル』行かない?」 その言葉に、恵理香はぱっと笑顔になる。 「行きたい行きたい!」 思わずそう大声を出してしまい、すぐに電車の中だということを思い出し、チラッと回り見て少し恥ずかしそうに笑う。 一緒になって笑う真那に、今度はこっそりと話しかける。 「いいじゃん、行こうよ。最近行ってなかったもんね」 「ね。久しぶりに青木さんにも会いたいでしょ?」 からかうように言う真那に、今度は声を出さずに手で突っ込むようなジェスチャーをした恵理香に、真那もごめんとジェスチャーで返す。 駅から出ると、2人はすぐに裏通りへと向かった。 駅のすぐ横にあるのに、裏通りのせいか人が減った通りの中に、『ル・シエル』という店はある。 白い壁と柱、店内のインテリアも白い物でこだわっている。 「ドアを開ければ、ベルがチリンチリンと鳴る。 「いらっしゃいませ〜」 妙に間延びした声とともに、金髪の店員が2人を出迎える。 「こんにちは、青木さん」 「お久しぶりです」 「どうも〜」 すでに青木と顔なじみの2人は、青木に「いつもの」と伝えると、さっさと自分達の定位置へと向かった。 店の奥にあり、カウンターと壁に接している席は2人のお気に入りだ。 カウンターには無精髭を生やした男が座っていた。 「マスター」 「お、2人共来たのか」 「はい、来ました」 無精髭を生やしている姿はとてもカフェのマスターとは思えないが、彼がこの店のメニューからインテリアまで全てを取り仕切っている。 「はい、いつもの〜」 にこにこと2人に紅茶を出す青木に、マスターが口を開く。 「おい、智紀。一応客なんだから、メニューの復唱ぐらいしろ」 「佐々木さん、一応は余計ですよ〜。一応は」 慣れた風にマスターの言葉を返し、青木は他の客の元へと向かった。 「ったく」 「マスター、ガラ悪い」 2人はくすくすと笑う。このおしゃれな空間でそれを感じさせないマスターと青木の雰囲気が2人は好きなのだ。 チリンチリン 「いらっしゃいま、せ〜」 だんだん声が小さくなった青木の声に、3人は入り口を振り向いた。 入ってきた人物を見て、3人は驚いた。
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