美しい女性だったが、身体が透けていて、女性の向こう側の景色が見えた。風がないのに髪や服がなびき、身体が十数センチ浮いていた。 「ご無事ですか?」 女性の口は動いていないのに、そう声が聞こえた。 「だ、いじょうぶ・・・」 真那はぼんやりする頭でそれだけ返した。その答えに、女性は嬉しそうに笑う。 「良かった」 優しい声だと真那は思った。ふんわりと自分を包み込んでくれるような、無条件の安心感が女性にはあった。 いつのまにか身体の緊張も解け、真那はゆっくりと立ち上がった。 「あれは、あなた?」 真那はそう言って、潰れた化け物を指す。 「はい」 自分から聞いた事だが、真那は信じられなかった。あの化け物を、こんなに優しい雰囲気を持った女性が壊せるとは、真那には思えなかった。 だが、自分を見つめる視線に嘘はなく、真那はそれが真実なのだと確信した。 「ありがとう」 「とんでもございません。あなた様が無事なら、それ以上の事はございません」 「何で?」 女性の言う事が分からない。何故自分を助けてくれたのか。しかも女性の口ぶりからすると、真那だから助けてくれたのだ。 何故自分を。真那はそう思い、女性に聞いた。 女性は真那に対して真剣な顔で告げる。 「あなた様が何よりも大事だからです。あなた様の命が、何よりも尊いからです。どうか、気をつけて下さい」 あまりにも大げさな答えに、真那は何も言えなかったが、最後の言葉に反応した。 「気をつける?」 「はい。あなた様のお命を狙う方がいらっしゃいます。どうか、お気をつけ下さい」 「誰?」 真那がそう聞くと、女性は悲しそうな顔をして言う。 「それはお伝えできません。でも、その方は誰よりもあなた様に近い方でございます」 「私に?」 「はい」 女性がそう頷いた時、真那の耳にある人物の声が届いた。 「真那ー?!」 「大輝?」 「それでは」 大輝の声に真那が後ろを振り返った瞬間、女性はスゥッと消えてしまった。 「あ・・・」 「真那?!」 女性が消えたと同時に、大輝が角を曲がって現れた。ずっと真那を探して走っていたのだろう、息が完全にあがっている。 大輝は、真那を見つけて安心したように息を吐いたが、真那の前にある潰れた化け物の残骸を見て驚いた。 「これ・・・?」 それだけ真那に呟くように聞いた。いや、それ以上言葉が続かなかった。 目の前の光景は常識からかけ離れすぎていて、状況を飲み込めなかった。
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