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作品名:九十九神 作者:華月

第18回   18
 美しい女性だったが、身体が透けていて、女性の向こう側の景色が見えた。風がないのに髪や服がなびき、身体が十数センチ浮いていた。
「ご無事ですか?」
 女性の口は動いていないのに、そう声が聞こえた。
「だ、いじょうぶ・・・」
 真那はぼんやりする頭でそれだけ返した。その答えに、女性は嬉しそうに笑う。
「良かった」
 優しい声だと真那は思った。ふんわりと自分を包み込んでくれるような、無条件の安心感が女性にはあった。
 いつのまにか身体の緊張も解け、真那はゆっくりと立ち上がった。
「あれは、あなた?」
 真那はそう言って、潰れた化け物を指す。
「はい」
 自分から聞いた事だが、真那は信じられなかった。あの化け物を、こんなに優しい雰囲気を持った女性が壊せるとは、真那には思えなかった。
 だが、自分を見つめる視線に嘘はなく、真那はそれが真実なのだと確信した。
「ありがとう」
「とんでもございません。あなた様が無事なら、それ以上の事はございません」
「何で?」
 女性の言う事が分からない。何故自分を助けてくれたのか。しかも女性の口ぶりからすると、真那だから助けてくれたのだ。
 何故自分を。真那はそう思い、女性に聞いた。
 女性は真那に対して真剣な顔で告げる。
「あなた様が何よりも大事だからです。あなた様の命が、何よりも尊いからです。どうか、気をつけて下さい」
 あまりにも大げさな答えに、真那は何も言えなかったが、最後の言葉に反応した。
「気をつける?」
「はい。あなた様のお命を狙う方がいらっしゃいます。どうか、お気をつけ下さい」
「誰?」
 真那がそう聞くと、女性は悲しそうな顔をして言う。
「それはお伝えできません。でも、その方は誰よりもあなた様に近い方でございます」
「私に?」
「はい」
 女性がそう頷いた時、真那の耳にある人物の声が届いた。
「真那ー?!」
「大輝?」
「それでは」
 大輝の声に真那が後ろを振り返った瞬間、女性はスゥッと消えてしまった。
「あ・・・」
「真那?!」
 女性が消えたと同時に、大輝が角を曲がって現れた。ずっと真那を探して走っていたのだろう、息が完全にあがっている。
 大輝は、真那を見つけて安心したように息を吐いたが、真那の前にある潰れた化け物の残骸を見て驚いた。
「これ・・・?」
 それだけ真那に呟くように聞いた。いや、それ以上言葉が続かなかった。
 目の前の光景は常識からかけ離れすぎていて、状況を飲み込めなかった。


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