一瞬何が起きたのか分からなかった。気がついたら、真那は地面に転がっていた。 「?」 朦朧とした頭を必死に起こし、真那は自分の状況を確認しようとした。 「ッ!」 自分の体の上にあの化け物がいた。真那は反射的に逃げようとしたが、右腕を化け物が押さえていて動けなかった。 化け物の顔が真那に近付き、目を細めてニタリと笑った。そして蛇を思わせる舌を出しながら、楽しそうに言う。 「肉おくれ」 「いやーーー!」 力任せに動くと、右腕を押さえていた化け物の手が離れた。 その勢いのまま、真那は化け物の下から逃げ出し、先程の声に従い角を曲がる。 「え・・・?」 そこは行き止まりだった。もうどうすればいいのか分からず、真那はその場に立ち尽くした。 「・・・ッ?!」 気配を感じて振り向くと、後ろにいた化け物が、真那目掛けて機械の腕を振り下ろしてきた。 真那はパニックに陥った頭の片隅で、どこか冷静にその腕を見ていた。 その時再び、先程の声が再び真那に言った。 『伏せて!』 真那は反射的にその言葉の通りその場に伏せた。 その瞬間、真那の頭上で強い風が吹き、同時に何かがぶつかる音がした。 恐る恐る顔を上げると、信じられない光景が広がっていた。 あの化け物が潰れていた。自分から十数メートル離れた所で、何かに押し潰されたかのように潰れていた。 「何で・・・?」 『ご無事ですか?』 真那を呼んでいた声がして、化け物から目を離し、真那はゆっくりと振り返った。
資料をパラパラと捲りながら、近藤は自分を見つめる山下に言った。 「九十九神っていうのは、長い年月を経て古くなった道具や器なんかに魂や精霊が宿って、妖怪みたいなもんになった物のことらしい」 「物が妖怪になった?」 不思議そうに聞き返す山下に、近藤は唸りながら頷く。 「そうらしい」 「何で、こんな物・・・?」 「分からん」 図書室で、近藤と山下に新たな謎が増えた。 この謎が解けるにはまだ掛かる、と2人は直感でそう思った。 「それともう一つ」 あの男の事や、今何が起きているのか考えていた山下は、近藤が急に発言した事で一瞬遅れて反応した。 「はい?」 「九十九神ってのには、もう一つ種類があるらしい」 「何ですか?」 「物以外にも、九十九神っていうのはあるらしい」 近藤の言っている事の意味が分からず、山下は首を傾げる。表情からも全く理解していないのが伺える。 近藤はどう言えばいいのか考えながら、ゆっくり話し始める。 「つまりだな、あー、何でも九十九神っていうのになれるらしい。だから、楽器や食器だけじゃなく、動物や土地にも、魂とか、精霊とか、そういうのが入れば、なんでも九十九神っていうのになるらしい」 「んー・・・。つまり、何でもありって事ですか?」 大雑把過ぎる理解だが、山下が何の抵抗もなくこの話を受け入れてくれた事に、近藤はホッとした。 こんな言葉を、いくら不審な男から聞いたとしても、まじめに調べても誰も聞かないだろう。聞き間違いだといわれるのが目に見えている。 しかし、自分と一緒にあの男から同じ言葉を聞き、自分を慕ってくれる山下なら聞いてくれるだろうと近藤は思っていた。 今度はその言葉が事件に何か関係しているだろうか、とまた考え始めた山下を見ながら、近藤は良い後輩を持ったとしみじみ思った。
真那の目の前には1人の女性がいた。その女性を見て、真那は化け物を見た時と同じくらい驚いた。
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