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作品名:九十九神 作者:華月

第15回   15
「私一人だけ?」
「え?」
「男の人・・・というか遠遣、いなかった?」
「真那だけだけど?」
 最初は不思議そうに真那の問いを聞いていた大輝だが、真那の質問の意味が分かり、首を傾げながら答える。
「そう」
「何で?」
「いや、何となく・・・。私がここに来たんだから、遠遣も来たんじゃないかな、って思っただけ」
 では、彼は今も自分の家にいるのだろうか。そう思うと、家の鍵は閉めてなくても大丈夫か、などと関係ない事を思った。
「お腹すいてる?」
 全く関係ない事を思っていると、大輝が唐突にそう聞いてきた。
 一瞬真那は反応が出来なかったが、すぐに意味を理解し首を軽く振りながら答えた。
「今日は大丈夫」
「そう。じゃあ、買い物付き合ってくれる?食材がもうないんだ」
 そう言って大輝は立ち上がった。
「あ、はい」
 頭がまだ正常に働かないうちに、次から次へと唐突に言われ、真那はぼうっとしたまま大輝の後に従った。
 スーパーに向かう道の途中、真那は大輝の横を歩きながら何となく話し掛ける。
「なに買うの?」
「野菜と、パスタ」
「パスタ好きだね」
「うん、好き」
 ポンポンと答えが返ってくるのが面白くて、真那は他愛もない事を次々と聞いた。
 その時、真那は微かに何かの声を聞いた。
「・・・・・・たい・・・」
「えっ?」
 今まで自分に間を空けずに離しかけてきた真那が、急に立ち止まってしまい、大輝は不思議そうに振り向く。
「どうした?」
「聞こえないの?」
「・・・たい・・・」
「何が?」
「・・・・・・べ、たい・・・」
「この声」
「声?」
「・・・べたい・・・」
 大輝はますます不思議そうに自分を見つめる。しかし、真那の耳には段々とはっきりした声が聞こえてきた。
 自分にしか聞こえない声。その声の所に行かなければいけない。なぜか真那はそう思った。
「大輝、ごめん。ちょっと行ってくる」
「は?おい、真那?!」
 自分を呼ぶ大輝の声にも振り返らず、真那はその場から駆け出した。
 自分がどこを走っているのかは分からない。回りには倉庫が立ち並んでいるせいで、どこも似たような景色に感じる。しかし真那には声の主がどこにいるのか、どこに行けばいいのかがなぜか分かっていた。
 そして倉庫の角を曲がった瞬間、真那は目の前の景色に自分の目を疑うほど驚いた。
「・・・ぁ、・・・」
 自分が何の声を聞いていたのか、何を目指して走ってきてしまったのか、それが分かった。分かった瞬間、真那は体中が粟立つのを感じた。


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