「私一人だけ?」 「え?」 「男の人・・・というか遠遣、いなかった?」 「真那だけだけど?」 最初は不思議そうに真那の問いを聞いていた大輝だが、真那の質問の意味が分かり、首を傾げながら答える。 「そう」 「何で?」 「いや、何となく・・・。私がここに来たんだから、遠遣も来たんじゃないかな、って思っただけ」 では、彼は今も自分の家にいるのだろうか。そう思うと、家の鍵は閉めてなくても大丈夫か、などと関係ない事を思った。 「お腹すいてる?」 全く関係ない事を思っていると、大輝が唐突にそう聞いてきた。 一瞬真那は反応が出来なかったが、すぐに意味を理解し首を軽く振りながら答えた。 「今日は大丈夫」 「そう。じゃあ、買い物付き合ってくれる?食材がもうないんだ」 そう言って大輝は立ち上がった。 「あ、はい」 頭がまだ正常に働かないうちに、次から次へと唐突に言われ、真那はぼうっとしたまま大輝の後に従った。 スーパーに向かう道の途中、真那は大輝の横を歩きながら何となく話し掛ける。 「なに買うの?」 「野菜と、パスタ」 「パスタ好きだね」 「うん、好き」 ポンポンと答えが返ってくるのが面白くて、真那は他愛もない事を次々と聞いた。 その時、真那は微かに何かの声を聞いた。 「・・・・・・たい・・・」 「えっ?」 今まで自分に間を空けずに離しかけてきた真那が、急に立ち止まってしまい、大輝は不思議そうに振り向く。 「どうした?」 「聞こえないの?」 「・・・たい・・・」 「何が?」 「・・・・・・べ、たい・・・」 「この声」 「声?」 「・・・べたい・・・」 大輝はますます不思議そうに自分を見つめる。しかし、真那の耳には段々とはっきりした声が聞こえてきた。 自分にしか聞こえない声。その声の所に行かなければいけない。なぜか真那はそう思った。 「大輝、ごめん。ちょっと行ってくる」 「は?おい、真那?!」 自分を呼ぶ大輝の声にも振り返らず、真那はその場から駆け出した。 自分がどこを走っているのかは分からない。回りには倉庫が立ち並んでいるせいで、どこも似たような景色に感じる。しかし真那には声の主がどこにいるのか、どこに行けばいいのかがなぜか分かっていた。 そして倉庫の角を曲がった瞬間、真那は目の前の景色に自分の目を疑うほど驚いた。 「・・・ぁ、・・・」 自分が何の声を聞いていたのか、何を目指して走ってきてしまったのか、それが分かった。分かった瞬間、真那は体中が粟立つのを感じた。
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