「先輩、あそこ」 加瀬の言葉に頭痛を起こしかけていた近藤は、山下の声に後ろを振り向く。 「どうした?」 「あれ、何でしょう?」 山下の指す方向を見ると、路地の入り口付近に何か落ちているのが見えた。 近藤がそれに向かって歩き出すと、山下がそれに続いた。 近藤が落ちていた物を拾い上げる。 それは、丸い、眼鏡のレンズのような形をした透明な物体だった。 「それ、水晶ですか?」 「さぁな」 「水晶ですよ」 突然その場に現れた声に、2人はバッと顔を上げる。 「誰だ?!」 「この事件の真相を知っている者ですよ」 「何だと?!」 その声に驚きつつも、2人は声の主を見つける。路地の中にある店の隅、陰に隠れるように1人の人間が立っていた。 背が高い。声からして男だと分かるが、どういう背格好なのかは分からない。それは、相手がマントを頭から被っているせいだ。 「九十九神が関係してますよ」 「つくも・・・?」 「今言えるのはそれだけです。では」 「待て!」 山下が近藤の横を走り抜けて、前に出る。しかし次の瞬間、2人は驚愕に目を開いた。 「なっ・・・?!」 消えた。今まで2人の目の前にいたはずなのに。山下の手が触れる前に、一瞬にして消えてしまったのだ。 あまりの事に、2人はその場に立ち尽くした。 あり得ない。しかし今目の前で実際に起きたのだ。人が、目の前から急に消えた。 「どうしたの?」 呆然としていた2人に、加瀬が話し掛けてきた。 「いや、今・・・、」 「はい?」 言葉にしようとしたが、近藤はできなかった。 言ってしまったら、今目の前で起きた事を認めてしまう事になる。あんな事を認めたくない。 だが、そんな事すら思わないほど驚いた山下が、夢から覚めたようにゆっくりと口を開く。 「今、そこに人が・・・。いなくなって、つくもがみって・・・」 「九十九神?」 ほとんど単語を繋げただけの内容だが、加瀬は山下の言葉にピクリと反応した。 「加瀬さん?」 「九十九神って言ったの、その人?」 「えぇ、確か・・・」 そんな意味の分からない言葉より、事件の真相を知っているといった事を言おうとしたら、加瀬は急に踵を返して歩き出した。 「加瀬さん?!」 「私、そろそろ報告に戻らなくてはいけないの。一応、人がいたっていう事は伝えておくわね」 「あ、はい。お願いします・・・」 加瀬の態度に、近藤は結局言いたい事を言えないまま加瀬は去って行ってしまった。 「先輩。加瀬さん、どうしたんでしょうね?」 「分からん」 2人は加瀬が去って行った方をしばらく見つめていた。
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