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作品名:九十九神 作者:華月

第11回   11
「先輩!」
 次の日、署に入るなり山下が近藤の元に駆け寄ってきた。その光景にデジャヴを感じながらも、近藤は重い口を開く。
「今度はどうした?」
 山下の様子から、何かがあったのだという事が察せられる。しかも、とても嫌な事が。
 近藤の予感は的中した。山下の言葉を聞いた瞬間、近藤は今度こそ今回の事件が嫌になった。
「持田馨が、死体で発見されました!」

 現場に向かった2人は、死体現場が昨日2人と話した場所と、ほぼ変わらない場所である事に驚いた。
「また猟奇殺人だそうです。ですから、詳しい死亡時間は分かりませんが、僕達と話をしてそんなに時間は経っていないようです」
「あの後か・・・」
 不思議な感じだった。刑事になり、何百人という人間の死体を見てきたが、この連続殺人の異常さ、そしてその被害者の中に、自分と浅からぬ縁を持った者が巻き込まれた。近藤は言いようのない、奇妙な感覚に襲われた。
 その時、現場に来ていた刑事達の間に、驚いたような声が上がる。
 振り返った2人も、そこにいた人物を見て、他の刑事達同様、驚いて声を上げた。
「加瀬さん?!」
 生々しい死体現場に相応しくない、上品な物腰と、年齢を感じさせない優雅な雰囲気を持つ女性がそこにいた。
 女性の名は、加瀬由香里。近藤だけではない。ここにいる刑事達のほとんどが彼女の後輩だ。この年で刑事として警察にいるのもすごい事だが、彼女は実績も他の刑事達に引けをとらない。
 加瀬はここが死体現場なのだと感じさせないほど優雅な仕草で近藤達に近付く。そして、柔らかい微笑を浮かべて話し掛ける。
「久しぶり、近藤さん。あなたは、山下さんだったわね?」
「は、はい!」
 加瀬に急に話し掛けられ、山下は大げさなほど背筋をピシッと伸ばして答える。
 その様子にクスクスと加瀬は笑う。
「気を使わないで。キャリアは長いけど、役職は同じなんだから」
「は、はい!」
 緊張してしまっている山下には、加瀬の言葉の意味が理解できていない。山下の様子に加瀬は再びおかしそうにクスクスと笑う。
「現場の状況は聞いたかしら?」
「いや、まだです」
 加瀬の表情が真面目なものになる。
「被害者は知っているわね。持田馨、25歳。死体はここで亡くなった後、頭から足まで前後に切り開かれているわ」
「前後?」
「体の前の部分と、後ろの部分に裂けるように切り開かれていたの。例えが悪いけど・・・、まるで魚の開きのように」
「あぁ・・・」
 山下が近藤の後ろで力なく声を上げる。理解は出来たが、理解したくなかった。
 ここ数日の間に、もう3人もの不振な死体の様子を語られたのだ。しかもアイスだの魚などと、普段食べるような者に例えられては、しばらくそれを見ることさえ嫌になる。
 加瀬はそんな近藤達の様子に気付いているのか、何も言わずにこちらを見ている。
「何です?」
「いえ、近藤さんを見ていたわけじゃないの。考え事よ」
「考え事?」
「えぇ。犯人じゃなくてもいいから、誰かこの事件の関係者が捕まればいいんだけど・・・」
 加瀬が言った言葉に、2人は今までの気持ち悪さを忘れて聞き返す。
「加瀬さんは、これは複数犯だと思うんですか?」
「えぇ。こんなに複雑な殺し方、1人じゃ無理だと思うんだけど・・・?」
「でも、この異常さですよ?これを2人以上がやっているとしたら、異常者が2人以上いるって事ですよね?!」
 山下も近藤も、それだけはごめんだった。
 そんな異常な性癖の人間がいたら、1人だって目立つだろう。2人となると、最悪だ。しかも、警察の目を誤魔化すだけの悪知恵を持っているのだ。始末が悪い。


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