バカ秋おかえり〜。」 「あんた何あの挨拶、ふざけすぎ!!」 始業式が終わり駿介と陽菜が、帰ってきた千秋を迎える。 「ただいま〜そして陽菜あんまり怒るなよ、しわ増えるぞ。」 いつになく真剣な顔で千秋が言う。 「こんな時だけ真剣になるな〜」 からかわれた陽菜が、さらに苛立つ。 「まぁまぁ、それくらいにしてクラス分け見に行こうぜ。」 このままでは、千秋が張り倒されると判断した俺がフォローを入れる。 「そうだな、クラスごとにホームルームもあるし。」 駿介が相槌を打つ。 「そうだね、ここで油売ってたら遅刻しちゃう。」 千秋も同意する。 「そうね、バカに油売って遅刻じゃ割に合わないわ。」 陽菜も千秋に嫌みを言うおまけ付きで同意する。 「なんだとぉ〜、やっつけてやる。」 千秋が陽菜の言葉に反応した。 千秋、頼むから俺の好意に気付いてくれ。 「はいはい、それくらいで次行くぞ。本当に遅刻しちまう。」 駿介が千秋の首根っこをつかんで引きずっていく。 「まだ、オチがついてないぞぉ〜」 千秋が体全体で不完全燃焼を表現する。 そのあとに続く俺と陽菜。 できれば全員同じクラスであってほしい、そんな思いでクラス分けを見に行く。
「奇跡的だな。」 「そうねぇ〜これってどれくらいの確率なのかしら。」 「凄すぎるぞこれ。」 クラス分けの結果は、まさに望みどおり全員同じクラスだった。 天の神様は、俺の望みを叶えてくれたわけだ。 「なんじゃこりゃぁ〜!!!!」 相変わらず、想像以上に大きいリアクションの男。 当然周りの連中に注目される。 「うるさいわよ、バカ秋!!」 陽菜が周りの目を気にして恥ずかしそうにしている。 「だってぇ〜、よりによって野獣と不良と変態が同じ教室にいるって先が思いやられる。」 千秋が、がっくり肩を落とす。 それを見て、俺たち三人の心が一つになる。 「お前とおなじクラスになったこっちのせりふだぁ〜!!」 三位一体となった拳が千秋を襲った。
「空は青いなぁ〜。」 俺たちに殴られ鼻血が止まらないので仕方なく鼻栓をした千秋が、先生の話に飽きてぼんやりしていた。 俺と千秋そして陽菜の席はかなり近くだった。 窓側の一番後ろの席が千秋、その前に俺その横に陽菜。 そして、駿介は真ん中の列の一番中心。 先生の目につきやすいところ、ナンバー1。駿介ご愁傷様です。 ふと見ると、駿介の前の席が開いていた。 新生活の初日から欠席するなんてすごいな、誰だろう。 「よぉ〜し、これからお楽しみの自己紹介タイムだ。」 担任の清水先生が、笑って言う。 俺の番が終わり、千秋の抱腹絶倒の自己紹介が終わり、陽菜と次々進んでいく。 「魅郁〜いないのかぁ?なんだ、初日からいきなり欠席か。まぁいいじゃ宮川お前の番。」 やれやれといった感じの駿介が自己紹介を始める。 それを聞きつつ、駿介の前のやつがどんな奴かを想像する。 「ミ・ク・ニ・・・」 どっかで聞いたような名字だった。 それが司の名字だと気付くのにそう時間はかからなかった。 「魅郁司、同じクラスだったんだ・・・。」 本当に神は俺の望みをかなえてくれた、さっきよりハッキリとそう思った。 「よかったね、司ちゃんと同じクラスだ。」 千秋が後ろからそっと話しかける。 「あぁ、でもあんな出会い方だから結構複雑かも。」 頭にはじめて司と出会った時を思い出す。 「俺、翔太と司ちゃんの出会いの話はまだ聞いてないんだけどなぁ〜」 甘えた声でそういって、背中に指をあててぐりぐり動かす。 「なになに、神崎君あの問題児と関わりあるの?気になるぅ〜」 陽菜も話に入ってくる。 「千秋と陽菜に話すなら、駿介にも話すべきだから放課後な。」 「りょうか〜い」 千秋と陽菜が声を合わせる。
「で、山下りた。以上」 放課後、三人にあの日のことを話す。 「すごいじゃない!!あの鉄仮面と名前で呼び合う仲になるなんて」 陽菜がかなり興奮して拍手しながら言う。 「確かに以外だな。」 駿介が、深くうなずいて言う。 「鉄仮面って司のこと?」 「そうそう、だって彼一度も笑わないし顔無表情だし・・・」 「確かに、滅多に口を開かないし、会話は大体一言で済ませる。相槌を打つだけだ。」 なるほど確かにそうだな、俺はすぐに納得した。 「ところで千秋は司と仲いいのか?司ちゃんとか言ってたけど。」 「そうだよ。そりゃ切っても切れない深ぁ〜い友情で結ばれてます。」 千秋が胸を張る。 「違うわよ、このバカが勝手にそう呼んでるだけで本人迷惑そうだから。」 「こいつ、去年さ魅郁と同じクラスになって一方的にあいつに近づいただけだ。」 なるほどそういう事か、要は俺と同じように司も千秋の被害にあったわけだ。 「まぁ、俺は司ちゃんの正体を知る唯一の存在だけどね。」 千秋が意味深なことをいう。 「なになに気になる〜教えてよ!!」 陽菜が食いつく。俺もかなり興味がある。駿介は興味なさそうだった。 「司ちゃんの正体は、宇宙人なのでしたぁ〜」 こいつの話に食いついた俺たちが馬鹿だった。 駿介だけは千秋がボケるのをわかっていたようで呆れ顔だった。 「真面目に答えんかぁ〜!!」 ―ドッカン!!― 陽菜が、千秋を張り倒す。 「まぁまぁ、こういうことは他人からじゃなく本人から聞くもんだ。」 「本人が言わない秘密をばらすのはよくない。」 千秋が立ち上がって言う。 「どうせたいしたこと知らないくせにぃ〜」 陽菜の拳が震える。 「同感だな。そろそろ帰ろうぜ。」 駿介が窓から夕焼けを見ながらそう言う。 「そうしようか、あぁそういや司ちゃん夕焼け見るのが好きでさ。」 千秋が唐突に言う。 「学校に居る時の放課後は、日が暮れるまでたいてい屋上に居るんだよなぁ〜」 千秋が不敵に笑ってみせる。 「またどうでもいい事を。鉄仮面、今日欠席でしょうが。」 「いや、あいつ今日いたよ。俺見かけたから。」 「くだらねぇ〜、先行くぜ。」 駿介がそう言って教室を出ていくそれに釣られて陽菜も出ていく。 俺と千秋だけが残された。 「んで、翔太はどうする、屋上行く?」 千秋が問いかける。 答えるより先に、俺は屋上に走っていた。
「あれ?翔太は。」 「翔太は、屋上に行きました。」 下駄箱で待っていた駿介の問いに答える千秋。 「もぉ〜、また神崎君からかって。」 陽菜が、怒って言う。 「あんま怒るなよ、俺はあの二人なら仲良くなれると思ってんだから。」 「そしたら、俺はまさにキューピットだ。」 千秋がチャカして言う。
「司!!」 屋上に司を見つけた俺は思わず叫んでいた。 ―!!― フェンス越しに夕陽をぼんやり見ていた司が振り返る。 その顔は明らかに動揺していた。 「お前、驚くとそういう顔すんだな。」 俺は、司の新しい表情を知って嬉しくなる。 「う、うるさい。」 今度は恥ずかしそうにする司。 「でっかい夕日だな。」 司の隣立って言う。 「何しにきた、翔太。」 落ち着きを取り戻すと、相変わらずのそっけなさ、ただ約束は守ってくれた。 「夕陽を見に来ちゃ悪いか?」 「いや、別に。」 司との再会だった。
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