まさか、本当に鬼?そう思った瞬間体が硬直した。 何かが間違いなく居る俺の背後に・・・。 「もう一度言う、今すぐ山を降りろ。」 さっきよりも強い口調で、そいつは言った。 動かなきゃ、それだけは本能的にわかった。 「あっ・・・ぅ」 しかし金縛りにあったように、身動きが取れない。 「ふぅ・・・」 仕方ないといいた感じのタメ息。 ―・・・ポン― 肩に手が置かれる、その手には不思議な安心感があった。 ゆっくりと体の硬直が解けるのを感じた。 そしてその手は、そのまま俺を引っ張ったゆっくりとそいつの姿が分かる。 「えっ!?」 目を疑った、そこに居たのは俺と同い年の男の子だったのだから。 鬼じゃないその安堵感からか、全身の力が抜けてその場に座り込んでしまった。 「おい」 そいつは、何していると言いたげに俺を見る。 それなりに整った顔立ち、優しそうだとか怖そうだという印象は受けない、 どこか悲しそうな雰囲気がするが、全く感情が読めない無表情な顔だった。 「おまえは、鬼?」 精一杯に声を発するも、明らかに震えた俺の声。 「いや、違うな。」 彼は静かに言う、たださっきのように攻撃的ではなかった。 「お前、ここに何しに来た?」 今度は、彼から切り出した。 「星を見に来ただけ。」 本当は、つまらない意地でここまで来たのだが・・・。 「星なら上を向けばどこでも見れる。」 確かにと思わず言いたくなった。彼はさらに質問をする。 「誰にここを教えられた?」 「千秋。」 「あの男、また余計な事を。」 意外な反応だった、こいつは何者だ?ますます分からなくなる。 「千秋を知ってるのか?」 「ああ。」 「あのもしかして、この下にある学園の生徒?」 「そうだ。」 急に親近感がわいた、同じ学園で同じ人を知っている。 「あの、君の名前は?」 「司、魅郁司。」 「つ、かさ。」 名前を口にする。 この謎めいた少年の名前は司、なぜかすごく重要なことを知ったような気分だ。 そして俺はもっと彼のことを知りたくなった。 「司は、どこに住んでんの?」 「司はどうしてこの山に居るの?」 「司は・・・ぐほっ。」 「うるさい、気安く名前で呼ぶな。」 司に口をふさがれる。 「俺は、この山に住んでる山に居るのもそのためだ。」 さらりと俺の質問に答えると口から手を放す。 「ごめん、挨拶が遅れた俺、神崎翔太よろしく。」 手を差し出すと、少し不機嫌そうにしていた。 「お前の名前なんかに興味はない。それだけ喋れる元気があるなら・・・」 「ところで言い伝えじゃこの山は鬼が出るから人は出入りしないんじゃないのか?」 さっきのお返しとばかりに司の言葉をさえぎる。 「先に言う、この質問に答えたらお前は山を降りろ。」 「いつまでもお喋りしているほど暇ではない。」 どうも、人に詮索されるのがいやらしい。 俺も、初対面にして嫌われるのも困る。 これ以上は、もっと司と仲良くなってからにしよう。 「わかった。その代りお互いのことは名前で呼び合おう。」 お互い名前で呼び合うだけで距離は縮まる。 その分、司に近づけるはず。 「嫌だと言ったら?」 「帰らない。」 まっすぐ司を見る。これだけは譲れない、そう目でうったえる。 「ふぅ・・・目は口ほどに物を語るか、わかったよ。翔太」 やれやれ負けたよといった感じの司が、俺の名前を言う。 それだけでさっきより司との壁が薄くなった気がした。 「それで、質問の答えは?」 と先を促す俺。 「この山をさらに奥に行くと神社があるそこが俺の家だ。」 「そしてその神社で祀られているのが鬼神だ。」 「この木は、鬼神の魂が宿った木とされ人の魂を養分として育つといわれている。」 「木が芽吹かないのは、魂が足りないからだと戦国の世の時は、季節を問わずきれいな花を咲かしたらしい。」 「そして俺の一族が神社と御神木を守る、鬼神の使いとしてな。」 「もともと鬼とは、宮司を敬う言葉だったが、時が経つうちに変化して今の状態だ。」 「さぁ、話はすんだ。早いとこ降りてもらおう。」 そういうと司は、俺の手をつかみさっき登ってきた道まで引っ張る。 早く行けと言わんばかりに顎で下山ルートを指す。 その迫力に渋々頂上を後にする。 数歩進んだところで頂上を見ると、司はどこかに消えていた。
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