「次は、月御町です。お降りの方はお忘れ物の無いようお気を付けください。」 「やっと着いたかぁ〜、ふぁ〜あ。」 バスを降りるなり大きく伸びをする。 以前住んでいた所から4時間、電車やバスに揺られて体はなかなかに疲れていた。 「さてと、もうひと頑張りしますか。」 そういって、重い体を引きずり編入先の高校にある寮を目指す。 街をぬけ桜並木をしばらく行くと高校の門が見えてきた。 いかにも名門というような、厳かな造りに思わず息をのむ。 はたして、授業についていけるのかいきなり不安に襲われた。
「君が、うわさの編入生かい?」 「!!木が喋った!?」 俺は声のした桜の木を見上げると上のほうから人が手を振っていた。 「やぁ!!今降りるから待っててね。」 と言うと、そいつは勢いよく俺のほうへと飛び降りてきた。 「うわぁ〜!!」 思わずよける俺、その横で思いきり尻もちをつく同年代の男子。 「あのさ〜、上から人が落ちてきたら受け止めるのが常識だろ!?」 「なんだって?」 唐突に訳のわからない常識を問われた。 「しかも、木が喋るわけがないだろ。きみ大丈夫か?」 びっくりしてつい出た言葉を聞かれたのは恥ずかしい。 しかし今は怪我してないかが心配だった、何せ桜の木の天辺から落ちたのだから。 「いや、そちらこそ大丈夫ですか?」 「大丈夫に決まっているだろ!!少なくとも木が喋ると思っているやつより。」 だからそれを引き合いに出すのはやめろ〜!!と心で叫ぶ。 「いや、怪我してないかって意味だけど、派手に落ちたから。」 「……そっちのことかい!!」 笑顔で胸を叩かれる。どうも会話がかみ合わない。 「あってすぐに突っ込みを入れたのは君が初めてだ、やるねぇ〜ナイスボケ!! ところで、ようこそ月御学園へ俺は生徒会長の篠崎千秋よろしく。今日は君の案内役だよ。」 と言ってまぶしい笑顔を向けられたと思ったら、もうすでに数十メートル先にいた。 「お〜い、おいてくよぉ。」 遠くで叫ぶ声こいつ、マイペース過ぎだろ!!まだ俺、挨拶もしてないし・・・。
「んで、君の名前は?」 一通りの案内が終わり、俺の部屋で雑談が始まる。 案内の間この会長にペースを握られっぱなしだったのは言うまでもない。 「俺は、神崎翔太よろしく!!」 「よろしく翔太。俺のことは千秋ってよんでいいから。」 そう言って軽く握手を交わす。 「ところで、翔太はどこからきた?火星?」 「地球の夢島街。というかなんで出身聞くのに宇宙規模?」 「えっ!?なんとなく。夢島じゃかなり都会だね。」 やっぱり、この人の自由さにはついていけません。 「千秋は、ずっとこの街に居たの?」 「いや、俺は市長の息子だから3年前から。」 「なに〜!!!!!」 「わはっはっは、いい反応だよ。」 この街は昔過疎地帯で、街は新たな市長を募集、そしてこの町出身の一流企業の社長が市長になってからは見違えるほどの都会になった。そういう訳で、今この世の中で一番知名度の高い市長だろう。 その息子がいま俺の前にいるとは… そんなことを思いつつ、時間も忘れて話に花を咲かす。
「さて、だいぶ長居したな。んじゃそろそろ帰るわ。」 外の景色が暗くなったのを見て千秋がいった。 「あぁわかった。ところでさ、ここらで星が見えるとこないかな?」 「ここの屋上もしくは、学校の裏門を出てまっすぐの山の頂上。」 「わかった。んじゃ、俺散歩ついでに山に行ってくる。」 「やめたほうがいい!!」 強い口調で千秋がいう、驚いて俺の体がはねた。 「なんだよ、急にびっくりするな。山になんかあるのか?」 「ああ、鬼が出る。」 「……あはは〜なんだよ、ボケかよ!!」 しかし、千秋の顔は冗談には見えなかった。 「古い言い伝えでね、他にもいくつかある。昔からここに住んでいる人はまずあの山には行かない特に夜にはね。」 さらにもっともらしいことを言って恐怖を煽る。 「言い伝えって今のご時世に……。」 千秋の真剣さに少し怖気づく、背筋が急に冷たく感じた。 「まぁ、信じなくてもいいさ。ただ、郷に入っては郷に従えさ。んじゃまた明日。」 ―バタン―ドアが閉まり静寂が部屋を包む。 遠回しに行くなというように、千秋は出て行ってしまった。 いや、最初にハッキリ行くなと言ったから直接的か。 …鬼か、居るわけないよな?鬼なんて、きっと千秋のやつ試してるんだ、俺の度胸を。 会って間もないが、あの性格じゃ有り得なくはない。 明日千秋が、山に行ってないって知ったら茶化されるかも・・・。 「鬼が怖くて、一人じゃ山も登れないなんてかわいいね。しょ・う・ちゃ・ん」 とか言われそうだいや、下手したらもっとヒドイかも。 行かなくては、不純な動機で恐怖を打ち消す馬鹿な俺がいた。
「はぁ、はぁ、あぁ〜もう意外に高いなぁ〜この山」 もう20分程経つだろうか、気づけば山の八合目 遠くからだと小さい山だが、いざ登るとなるとその大きさに圧倒される。 ただ驚いたのが、道がそれなりに舗装されているのだ。 夜は誰も来ないらしいけど、昼間に誰かが登るかな? それにしても人気がない、夜空の星だけがハッキリとわかった。 ―ガサガサ― 「かぁ〜!!」 突然、森から鳥が飛びだした、それに驚いた俺は一目散に頂上へ。 「あの、馬鹿鳥〜!!ふざけんな!!」 そんなことを言いつつ、労せずに八合目から一気に頂上まで来れたのには感謝する。 頂上は、森に囲まれたただの広場だった。あまりに殺風景。 ただ、広場の中央には樹齢がかなりいっているだろうと思わせるほどの太い木があった。 力強いのに、どこかくたびれているその上、春だというのに葉っぱも芽さえ付いていない。 だが、一番に思ったのは、その妙な存在感からくる神々しさだった。
―ゴオォ〜―強風に体が飛ばされそうになる。
「何をしている……さっさと立ち去れ。」 静かな声が俺の背中に突き刺さった。
|
|