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作品名:700年後の恋 作者:兵藤 順一

第51回   聖橋と円形分水
放水を見ている時に奈津の精神は高揚していた。今日のバスツワーは以前からすごく楽しみにしていた。一人でも充分楽しむことはできたが、何と大好きな涼が現れた。そして橋を見るたびにエクスタシーを感じ始めた。それには医学的理由もある。実は妊娠すると胎盤ができる。胎盤ができると絨毛の形成が始まる。絨毛はエストリオールという女性ホルモン(エストロゲンの一種:別名発情ホルモン)と絨毛ホルモンを作って血中に出し全身に妊娠の準備をさせるのである。このホルモンの為いろんな精神的な現象が見られる。男が欲しくてたまらないという現象もこのホルモンのせいである。味覚の変異で酸っぱいものを食べたくなるのもこのホルモンが関係していると考えられている。そういった医学的な理由と感激的な精神状況が加わり奈津は通潤橋の放水シーンを見て完全に達してしまった。つまり欲情してしまった。となりにいる涼の手を握りしめる。目は完全に潤んでいる。こういう女性は夏の花火を見てこのようになる女性が結構いる。又逆に男性は戦いの時に男性ホルモンが溢れ出ていつもより強大な力を発揮する場合がある。そして自然と言葉が出てくる。
“私。今日は帰りたくない。涼さんとずっと一緒にいたい。”
涼もその言葉に舞い上がってしまい二人は時を忘れた。ずっと手をつなぎバスに乗り込みバスで聖橋の説明をしていても二人は上の空である。周りの人も二人が二人の世界に入り込んでいるのを邪魔せずに話し掛けない。
田島も後ろの席から二人の世界に入り込んでいる二人を見て、
“若いもんはいいなあ!”
と思い過去の若かった時代を思い出している。
聖橋の芸術的な作品を見て二人は我に帰った。だが手はつないだままである。だから完全には正気には戻ってないようである。本当に正気なら二人とも恥ずかしさで手を離すはずである。橋本勘五郎の自信作である聖橋は道路のすぐ横にかかっている。道路からは見えないが、しばらく上流に行き観察するとすばらしい作品である。奈津と涼は手をつないだまま橋を観察し二人で橋を歩いて渡った。他のバスツワーの人達も手はつないでないが、皆同様の事をした。バスに戻りバスで少しその川を上流に上ると円形分水に到着した。
“うわーすごい。”何人かが叫んだ。
200メーター先の笹原川の上流から取水された水が中央から内円外周に7:3の比率になるように区分けが施されている。内円から溢れた水はその比率により外円内の水路を通過しそれぞれの用水路に導かれる。水力学を利用した見事な分水システムである。水と人間との共同作品に見とれて二人はますます二人の世界に入っていった。
それからバスは矢部に戻り、御船の方に向かって夕尺橋、金内橋、通潤橋の橋を作る練習の模型橋といわれる立野橋、滑川橋、下鶴橋を見て交通センターに到着するまで完全に奈津と涼は二人の世界にはいったままであった。周りのひとの数人は
“あの二人は今からラブホテルに行き愛しあうんだろうな。”
と予想したが、予想通り、二人は近くのホテルに入っていった。
そしてホテルの部屋に入るなり時間を惜しむようにすごい速度で裸になり、キスをし、ベッドに倒れ込んだ。正常位で愛しあっていたが、高まっているエストロゲンのせいか、奈津はもっと刺激が欲しくて、
“ねえ!後ろからして!”
と言う。涼は一旦離れ、動物の交尾のように後ろから挿入した。
そうすると涼の頭と奈津の頭に
1億1000年前の恐竜時代に交尾する恐竜の映像が浮んだ。
二人ともそこで気付いた。
二人の遺伝子の恋愛遺伝子は1億1000年前の恐竜の夫婦だったのだ。
奈津は、
“シャルム王子より引かれる訳だ。”
と納得した。それと同時に絶頂の波が押し寄せて来た。
二人はベッドの中で見つめあい。
涼の、
“人類が存在する前から僕らは夫婦だったんだね。”
と言う言葉に奈津は黙って深くうなずくのであった。


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