出立の日となった。約5000の兵を引き連れての堂々の挙兵であった。しかし、グラナダ王国はキリスト教国と戦っている為、5000を出すと残りは1000余りの兵しか残って無かった。こういうところからも、国王のなみなみならぬ決意が感じられる。実はシャルムはあまり眠れなかった、眠ろうとすると、昨日覚えた両手の感触が、シャルムの脳を刺激し、朝方になってやっと眠る事ができた。シャルムは鎧、兜と長い槍を持って愛用の馬に乗っての出陣だ。アルハンブラ宮殿の2階部分からの王とナイーダの見送りを受けて、軽く会釈をして、 “出陣!!” と声をかけた。 グラナダ国の旗を持った兵士を先頭に、大軍が動き始める。シャルムはかけ声1つで大軍を動かせる快感に酔いしれた。そして責任の重さも痛感するのであった。グラナダ王国は以前は、スペインの国土全部を支配し、今のモロッコやアルジェリアに及ぶ大帝国を持っていた。今では、スペインではグラナダやアンダルシアとモロッコの大部分を支配するのみである。スペインはキリスト教の王国に大分奪い返されている。そして各々の国で、約3万人ほど派遣して戦っている。だから今度の兵士も、年寄りや、若者が多い。グラナダのかつての戦士で、年老いた人やまだ戦争経験が少ない若者が3000人ほどいた。その他の2000人はベルベル人が多く殆どはお金で雇われた傭兵であった。王子が堂々と進軍していると、7人程の老人が後ろから馬にのって挨拶に来た。 “私は王から指令長官を仰せつかりましたブッテリアです。この戦いには絶対に勝つようにと私が派遣されました。すべての事は私にお任せください。” 戦争大臣のブッテリアが付いてきてくれるので、王子は大船に乗った気がした。その他、運搬などの指図をするロレントァール、いつも王子に戦略の講義をしてくれているボワール、その他いずれも大臣経験者のグアニ、ルルミシア、デラルケント、ジオミシカなど、往年は天才と言われた戦争請負人をそろえてくれていた。ただ、現在の、天才達は、殆どがキリスト教国との戦いに駆りだされている。騎馬の天才ダリア、剣の天才キリアーニ、何でも卒なくこなすビルノア、そして王子が実戦では役に立ちそうに思える。 指令部がベテランで固められていたので、兵站はものすごくしっかりしたものとなった。一日目の宿泊所のマラガにも、地方長官に命令が行き届いていて、宿泊所や食事等細かいとこにも配慮があった。2泊めの、アルヘシラスも至れり尽せりで、その翌朝には港には船がびっしり埋まり、5000人を乗せてアフリカのタンジェへと快適な船の旅となった。タンジェから西の方へ行くにつれ、グラナダ王国の支配権が薄れてきて、少しずつ食料の調達も悪くなってきた。それと共に少しずつ風紀も乱れ始め、兵士の宿舎には売春婦が入り込んだり、博打をする人たちが兵士と賭博をしたりするところもあった。ベルベル人も多いのであまりきつくは取り締まれない。キリスト教国との戦いも長いので、グラナダ王国の軍費も膨大なものとなり、傭兵に充分の給料も払えない状況なのだ。そういう事に乗じてビグドリア国の命でベルベル人達にビグドリア国に味方するように、それでも駄目なら逃げるように、最低でも本気で戦わないように、ふんだんな資金を基に切り崩しがはかられていたのを、上層部は全く気ずかなかった。老人の殆どは相手はキリスト教国だったので、ベルベル人の裏切りは経験した事は無く、王子達若者は戦争経験に乏しい。2000人のベルベル人傭兵のうち1500人程は秘密裏に何らかの約束をビグトリア国と取り交わしていた。残りの500人も、グラナダ王国には忠実ではあるが、心情として親戚兄弟が雇われているビグドリア国とは戦いにくい。そういう状況の中で1週間と少し経った頃、ルイトン国に着いた。ルイトン国では早速、歓迎会が開かれた。局地戦はあっていたが、本格的な戦闘は行われていないようであった。シャルム王子を迎えて、ルイトン国王、王妃、ナイーダの姉、ジュリアーノ、そしてロルフ王子が並んでいた。シャルムが期待していたジュリアーノは国王そっくりで太っていて丸顔だった。王妃は美しいが、国王は、どっちかと言ったら醜男のように思えた。ロルフ王子は小太りだが痩せ顔で、幽かに王妃の美しさを遺伝していた。しかしナイーダの美しさは群を抜いている。歓迎会の後、王と王妃の部屋に独り呼ばれ、驚嘆すべき事を聞いた。王と王妃が代わる代わる話す。とても1人では話しにくい事だった。 “19年前、丁度ジュリアーノが生まれたばかりの頃、王宮にビグドリア国の強力騎兵隊と精鋭の兵士が攻めてきて、ルイトン国の兵士は壊滅、王妃のマチアは囚われの身となってしまったのです。” “私は捕われた後、王様は戦死した。ジュリアーノ姫も捕われているが、乳母に育てさせている。ジュリアーノ姫を救いたかったら私と結婚しろと、ビグドリアから毎日毎日言われ、最初は私もジュリアーノも殺して下さいと言っていたのですが、1週間後、可愛い姿を見せられ、私の元で、育てる事を条件として、結婚を引き受ける事にしたんです。” “その頃私は、妻の国フェズリアに逃げ込んで居たのですが、その噂を聞き付けて、兵士達も徐々に集まってきたので、フェズリアの国王の力も借りて、マチアとジュリアーノを取り戻す交渉をしたのですが、ビグドリアからの返事はなしのつぶてで...........” “結婚式はほんの内輪だけだったので、周囲は結婚した事も知らなかったようです。そして1年後ナイーダが生まれたんです。” “ええーでは、ナイーダ様は?” “そうです、妻とビグトリアの子供なのです。” シャルムは、 “だからルイトン王とは似ていないのだ。” と思った。 “1年数カ月後、兵力を整えた私は、フェズリアの兵も借りて、マチアとビグドリアの住んでいるルイトン王宮を急襲しました。そこの兵力はたいした事が無かったので、ビグドリアたちは、ビグドリア国に逃げて行きました。” “その時、攻めてきたのが、ルイトンと知らない私は、幼いジュリアーノと生まれたばかりのナイーダを抱えて途方にくれていました。” “そこへ兵士達と私がはいり、ナイーダを見て驚いた事。ビグドリアの子と知って殺そうとしましたが、マチアの必死のお願いに負けて私達の子として育てようと決心したのです。” “ジュリアーノはひょっとしたら薄々気ずいていたかも知れませんが、子供達にも、周りの者にも秘密にして、今まで過ごしてきたのです。それからは、ナイーダが可愛いのか、ビグドリアもおとなしくて、3年前までは小さな争いはありましたが、わりと平和に過ごしてきたのです。3年前にビグトリアは私の国フェズリアを襲って滅ぼしてしまったのです。” かすかに涙を流してその事を話すと、マチアはしばらく嗚咽をくり返した。父や母が残酷に殺されたのを思い出したようだ。 ルイトンが代わって話す。 “フェズリアを滅ぼしたのは、神の山に、金が多量に埋もれている事を知ったようで、すぐに神の山を掘り、金を手に入れてからは、軍備を整えて、強大な力を持つようになった後、マチアとナイーダを渡すように交渉をして来ました。私がそれを拒絶すると、それでは攻めてくるぞと言って、数回攻めて来ました。 そこで大臣が、ナイーダも年頃になったので、グラナダ連合王国のアルハンブラ王のお妃になれば、ルイトン国に手を出せなくなると言う進言を入れて、ナイーダに、貴国に行ってもらったのですが...........“ “私はナイーダを王妃にするのは反対だったのです。ナイーダと私が、ビグトリアに行って、ルイトン国に平和が訪れるのならそれでいいと.....” “王妃よ、それは私は嫌なのだよ。” 丁度その時、 “王様、ビグドリア国から、ルイトン王様とシャルム様に使者が参っておりますが?” と言ったので、 “我が軍の、警護兵を5人程連れて、使者を1人だけ大広間にいれよ。” と言ったので、 シャルムも、 “そこに、ブッテリアとダリア、そしてキリアーニに来るように伝えてくれ。” と言って、ルイトンとシャルムは大広間に入った。 使者の周りを警護兵が取り囲み、その横にキリアーニが立っていた。シャルムを見ると左横に着いた。シャルムを守る形である。 ルイトン王が厳かに聞いた。 “何の使者じゃー?” “はっっビグドリア国王様が、ルイトン様、シャルム様と話をしたいと言っております。もともと、グラナダ国とは戦争をする意志は無かったと申しております。神の山の前の神殿で会談をしたいと申しております。期日は明日午前10時。” ブッテリアが答える。 “われらアッラーの神は異教徒の神殿にはいるのを許さない。その近くの広場ではどうだろうか?” と言ったので、使者は、 “それでよろしゅうございます。” と答えた。ルイトンはやや不満そうだが、大国の重鎮が決めた事なので逆らえない。 “では、明日の10時に、それぞれ王、王子を含めて10名ずつ計30名であおうぞ。“ と決定した。
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